フラグをへし折る


忍者にとって情報は戦術の一翼であり戦略の一翼だ。だからこそ忍者は情報収集を怠らない。腐った情報で今日の飯にはありつけないのだと誰もが知っているからだ。
情報の命とは有用性に次いで鮮度である。



一年生を篭絡した菓子を片手に名前が訪えば二年生も堅く閉ざしていた門戸を開いた。少女の曖昧な記憶を名前が補完することによって時代を先取ったドーナツやジャムが次々に作られ、そうして少女は知識と共に浸透していった。いつの時代も胃袋を掴んでしまえば男に勝機はない。
目や耳は多いに越したことはなく、情報はお茶会と銘打たれた八つ時に行われる噂話の交換だった。そう言えば峠の茶屋に誰彼の思い人がいるそうだよ。ああ、誰其がそれに横恋慕だって。いいや茶屋の娘は町に良い人がいるらしい。そうして噂話は噂を呼んで、名前の手元には欲しいものから要らないものまで、多種多様な情報が集った。

情報戦も、くのたまの得手とするところ。



「そう言えば三年の富松先輩が硬そうなものを砕いてましたよ、少し前の夜中に」
「夜中?どうしてお前がそんなこと知ってるんだ」
「何言ってるんだ。行灯の油が切れた日があったろう、あの晩だよ」
「ああ、試験前か」
「お茶のお代わりは、どうですか?」
「ぼく渋めで」
「油が切れたから諦めて寝ることにしたんだったな」
「そうそう、それでおれが寝る前に厠へ立った時のことだ。三年の忍たま長屋から誰かが姿を現すのが見えて、怪しいと思いこっそり後を付けた」
「もう一切れ食べますか?」
「あ、ください」
「そうしたら長屋の脇で何かを砕く音がしたんですよ。かつーんかつーん、って!」
「なにそれこわい」
「一瞬お百度参りを疑ったおれ悪くないだろ」
「うん、確かにこわい」
「それは本当に作兵衛だったの?」
「間違いないです。きっちり部屋まで確かめましたから」
「マリアさん、お代わりくださーい」
「はーい」
「そう言えば三反田先輩も最近様子が変だったな」
「そんなの、他の先輩たちだってみんなそうだよ」

蒸し饅頭に似た菓子を切り分けながら笑う少女たちにとってはただのお喋りに過ぎず、場を盛り上げるための噂話に深い意味はない。

そこに意味を見出だすのは第三者の自由だ。

五年ろ組の鉢屋三郎先輩ならくのたま長屋に忍び込むことだって訳無いんだろうな。くのたま長屋に誰かが侵入ったらしいですね。くのたまに化けるなら、そりゃあ一番は鉢屋先輩でしょう。なんて言ったって、山本シナ先生のお墨付きですから。今日六年い組の立花先輩が射殺すようにマリアさんを見ていたよ。最近は委員会活動中にも弛んでるって苛々しっぱなしなんですよ。まるで親の仇でも見付けたみたいに。それなら四年い組の綾部先輩は最近マリアさんの通りそうな場所にばかり穴を掘ってるだろ。くのたま長屋の脇にばかり、狙ったように幾つも。でもくのたまたちが今更蛸壺に落ちるかな。誰も口に出しては言いませんけど、狙いは明白ですよ。落ちるのは保健委員ばかりだもの。

最近は夜が静かですね。

五年ろ組と言えば、不破先輩も不機嫌そうだね。昨日なんて鉢屋先輩と見間違えてしまったんです。先日裏々山で双忍の片割れを見掛けたのだけれど、あれはどちらだったのかな。知ってますか今日の委員会で七松先輩は五つもバレーボールを駄目にしたんですよ。物に八つ当たりするのは良くないって食満先輩に怒られてましたねー。あれ、怪我人続出させて善法寺先輩にこってり絞られたんじゃないの。そう言えば不幸の手紙なる書簡がくのたま長屋に投げ込まれたんだって。どこかで見たことのある字だったそうだよ。くのたまが会計委員の集まりに欠席を続けているんだとさ。二年生もですか。その話は一年生でも。潮江先輩の字って癖があるだろ。じゃあやっぱり。

誰もが息を殺しているみたいね。





だから名前は誰にも何も言わずににっこりと笑んだ。次にはゆっくりと境遇に同情してくださいな。

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