そして彼女は微笑んだ


わたしとあの子が一緒にお使いへ出掛けている間に一年は組の子供たちが連れ帰ったという天女さま。そうして彼女に懐いた後輩たち。
天女と名乗った彼女の言動を先生方や同輩たちが疑っていることは直ぐに判りました。だって小平太なんてあからさまに距離を置いていたのですから。

「あら仙蔵、どうしたの」
「お前は実に楽しそうだな」
「ええ、とっても」

わたしの髪を梳きながら仙蔵は楽しげに笑いました。それはとても綺麗で、わたしは堪らず手を伸ばします。向上心と根性に満ちあふれた天女さまは、確かに天の御遣いでした。

「お前の髪をわたしが結うのも久方振りになる」
「そうね、最近はタカ丸さんが結ってくれていたもの。でもわたしは仙蔵の指も好きよ、細くて綺麗」
「それは光栄な話だが、本職には敵わんぞ」
「良いのよ、仙蔵の好きなように結ってくれれば。タカ丸さんは確かに高い技術をお持ちだけれど、仙蔵の好みまでは把握していないわ。そうでしょう?」

調度同日実習で校外へ出ていた五年生の忍たまも戸惑っていたようだけれどわたしは敢えて気に止めなかったのです。なぜならわたしの隣には変わらず仙蔵がいたのですから、他の何を気にする必要があるでしょうか。

「あの子たちは未だ天女さまを妖の類いだと思っているみたいね。尾浜の言葉を借りるなら、仙蔵たちもたぶらかされているそうよ」
「それは大事ではないか。文次郎のみならずわたしまで騙されていると?馬鹿にされたものだな、わたしたちも」
「曰く、あの日学園にいた者は生徒教師問わず妖術に惑わされているそうなのだけれど」
「ではお前は無事なのか」
「彼らの仮説が正しいのだとすれば、ね」

そうしてまるで哀れむように彼らはわたしを見ます。物珍しさと多少の警戒心とそうして多大な好意で天女さまの側に多くの忍たまたちが集っている現状。それまでわたしの側にいた彼らが今は彼女の側にいることで、わたしはどうやら哀れまれているようです。

「余計な世話だな」
「本当にね」

どうやら彼女による妖術を解こうと躍起になっている彼らには悪いのだけれど、わたしはこのままでも何ら困らないのです。仙蔵の指が器用に後れ毛を持ち上げて高く括られたわたしの黒髪。仙蔵とお揃い。

「彼女が害されることはわたしの本意ではないわ」
「成る程な」

こうして仙蔵と二人で過ごす時間を与えてくれた天女さまに感謝こそすれ邪魔に思うなんてありえないのです。幼い後輩たちは確かに可愛いけれど、来年の今頃わたしはいないのだから、依存されたままで良い訳がないのですから。彼女の存在こそ渡りに船だったのです。

「どうしようかしら」
「小平太の話では個人でも随分と頑丈なようだが…あいつらもそこまで馬鹿ではないだろう?」
「それもそうね」



そして翌日、あの子たちの敗北を聞いてわたしたちは小さく笑ったのです。

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