傍観ヒロインを返り討つ逆ハー主人公


努力をしなくても手に入るもの。
例えば生まれた時から持っている才能、容姿、家柄。結局開始地点から違うのだと言いたくなるあたしの気持ちも判るでしょう?どんなに努力を積み重ねても到達出来ない地点が存在するの。だからと言って胡座を掻いていると追い落とされてしまう。つまり開始地点は違えど努力によってその後の人生は大きく左右されるものだという話。
誰からも好かれる才能って言うのは、つまり嫌悪感を抱かれない程度に世渡り上手なだけで。整った容姿だって、結局何の意味もない。出身が天の国だと言うだけで支持が得られる訳でもないあたしは、天涯孤独の身の上でこの世界に放り出された。西洋では天使なんて呼ばれている輩もいるみたいだけれど、ここは東洋。あたしは天女。この主体性だけは譲れない。

「あたしは好かれる努力をしたわ。その間、あの子は一体何をしたの?…何もしなかった。そうでしょう?」

あたしは何があっても帰らなきゃならない。そう、何があっても。何を犠牲にしても、何を捨てても。あたしは生きてあの方の元へ帰らなければ。そのためなら、どんなことでもした。噂に聞いていた天女補正なんて代物は存在しなくて、あたしは生きるために媚びて諂って微笑んで愛されるように努めた。

「何もせずに眺めていただけでしょう?」

天女も努力する時代になりました。物珍しさから天女さま天女さまなんてチヤホヤされるのは最初の数週間だって判っていたから、身近なところから切り崩そうと下級生から戯れてみた。泣きそうになりながら蛞蝓だって克服した。死にそうになりながら作法室の掃除だって手伝った。あたしの主体性は天女であること。それ以外には何も持っていない。残るのはただ帰る意志のみ。

「元々あたしが好かれていた訳じゃないことは、あなたが一番知っているじゃないの。あなたたちには敵視され、六年生には警戒されていた。あたしは死ぬ気で努力をしたわ。体育委員会のマラソンにだって付き合ったし、孫兵くんの毒虫探しだって参加した。その間、あの子は何もしなかったじゃない」

そうしている内に、あたしが何を言わなくても当然のように委員会活動に誘ってくれるようになった。食堂へ行けば一年生の子供たちが笑顔で寄って来てくれるようになった。蛸壺に落ちたら誰かが手を差し延べてくれるようになった。保健室のお茶会に呼ばれるようになって、用務員として仕事を任されるようになって、食堂のお手伝いをさせて貰えるようになった。町まで買い出しに行くとき、誰かが気をつけて行けよと声を掛けてくれるようになった。これは全部あたしが努力の末に手に入れた、あたしのものだ。

それを努力もしていない奴に詰られる理由なんて毛先ほどもない。

「今まで愛されていたから、これからも変わらず愛されるなんてそんなの傲慢だわ。あたしは昨日までの何不自由ない暮らしが今日に消えてしまうことを知ってるもの。あたしの努力を上回る何かを、あの子は持っているの?」

元々苦手ではなかった料理の才能を伸ばして食堂のお手伝いという役割を手に入れ、元々整っていた容姿を活かして商品を少しでも値切り、何の付加価値もない天女の肩書だけを胸に秘めてあたしは勝ち取った。不要と思われない程度の立ち位置、そう簡単には殺されない程度の居場所を。

「盗ったんじゃないのよ。彼らが自らの意思であたしを選んだだけ」

あたしを睨みつける久々知兵助の向こう側で、物陰に隠れた少女がひとり息を飲んだ。けれどそんなのはあたしにとって、実にどうでも良いこと。




不幸を嘆くだけならば誰にだって出来る。

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