傍観ヒロインを返り討つ天女主人公

六年生ともなれば一人前の忍者として扱われることに否やはない。だから小平太は一年は組の子供たちが連れて帰った女を疑った。空から落ちてきた天女の言い分を鵜呑みにするには成長し過ぎていたのだ。

「あたしも混ぜて貰えませんか?」

だから控え目に委員会活動への参加を打診された際には目を丸くして驚いた。体力が資本である体育委員会の活動は他の委員会に比べて学園の機密に接する機会には恵まれない。天女を自称する名前が密偵として送り込まれたなら、行動を共にするだけ無駄と言うものだ。

「おねえさんってすごく足速いんですね!」
「天女だって体力勝負なのよ。とよあしはらで生きるにはこの程度出来なくてはね」
「ほんとに凄かった。おれたち連れてなかったら、七松先輩と張り合えるんじゃないですか?」
「そうかしら?」
「そうですよ!きっと同じくらい速いです!すごいです名前おねえさん」

ありがとうと言いながら四郎兵衛の頭を撫でる人は途中から遅れはじめた金吾を背負い、三之助の手を引いて完走してみせた。どれほど好意的に見ても女の所業ではない。四郎兵衛を担いで完走した滝夜叉丸も目を丸くして女を見ている。
小平太は思考を巡らせることが得意ではない。そういった類いは仙蔵や長次などが行うべきであり、小平太には求められていない。だから小平太は目の前で後輩達に囲まれて笑う女に手を差し延べた。

「改めて、わたしは六年ろ組の七松小平太だ。是非また一緒に走ろう、名前おねえさん」
「ええ、是非お願いします」

疑うことを止めた訳ではない。ただ疑いながらも小平太は受け入れることに決めた。名前と名乗る女が天女であれ妖の類いであれ、他国の密偵であれ目の届く範囲内に置いておけば良い。どうせ裏々山を駆け回る体育委員会は学園の機密には触れられないのだ。

「うん、わたしも楽しみにしておく」

ただし個人的に言うならば、小平太はそれなりに名前のことを気に入っている。密偵であるなら本来目立つことは避けるべきだ。だがもう誰も名前を町娘とは思わないだろう。



可能性はふたつきり。
間抜けなくのいちか、それとも真実天女か。

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