傍観ヒロインを返り討つ逆ハー主人公


一年は組のよい子が言いました。
晴れた日に天女のおねえさんは落ちて来たのです。



食堂から聞こえた笑い声に乱太郎は足を早めた。隣を歩いていたきり丸としんべヱも顔を見合わせて駆け足になる。三人で食堂へ駆け込めば、そこには数日間で見慣れた光景が広がっていた。

「名前おねえさん!」
「おねえさんもうご飯食べちゃいましたかあ?」
「あ、抜け駆けだぞ!」
「早い者勝ちだもんねー」
「アホのは組!名前おねえさんから離れろ!」
「うわあ!い組の連中が来たぞ!」
「おねえさんはぼくらとご飯食べるんだから、は組はさっさと退散したらどう?」
「そうだそうだ!」
「後から来た癖に偉そうにするなよ!おねえさんだって嫌がってるだろ!」

騒がしい一年生たちに囲まれて困ったように微笑む女性は四日前に学園へ降臨した天女だと言う。雲ひとつない青空から光と共に降りて来た彼女を天女と呼び始めたのは一体誰だったのか。

「大人気ですねえ、おねえさん」
「嫌だわ、きり丸くんたらお世辞が上手ね。みんなあたしのことを珍しがってるだけよ」
「そんなことないと思いますけど」

右手に左吉、左手には三治郎をぶら下げて言われても信憑性は低いときり丸が肩を竦めれば隣で笑う乱太郎も同意した。天女のおねえさんは一年生の人気者なのだ。

「名前おねえさん、今日は二年生のお手伝いだったって本当ですか?」
「え!おねえさん意地悪されなかった?」
「怪我とかしてないですかあ?」
「大丈夫よ、心配してくれてありがとうね」

金吾と喜三太の頭を交互に撫でながら笑う名前は優しくて暖かい。柔らかい日だまりのような笑顔を浮かべる名前が、時折「かえりたい」と物憂げに呟くことを知っているから乱太郎たちは彼女の側にいる。少しでも寂しくないように。いつか帰る日まで笑顔で過ごせるように。

「い組は昨日おねえさんとご飯食べてたじゃないか、今日はぼくらの番だよ」
「なにー!」
「でも一昨日は組は朝も晩もおねえさんと一緒に食べていただろ。そっちが二回なら、ぼくらだって二回だよ」
「むう…!」

口が達者な庄左ヱ門と彦四郎のやり取りを微笑みながら見守る名前を視界に収め、伊助は傷ひとつない手を思い出す。喜三太の蛞蝓に悲鳴を上げた癖に、その蛞蝓に素手で触れる喜三太に躊躇なく触れる。名前は喜三太の趣味を否定しない。兵大夫たちのからくりを凄い凄いと褒めていたことも知っている。名前は否定しない。凄いのねと笑いながら頭を撫でてくれる。そこに忌憚はない。

「じゃあおねえさんに決めて貰おう!おねえさん、ぼくらとアホのは組と、どっちと一緒にご飯食べたいですか!」
「名前おねえさん、一緒にご飯食べようよー」
「そうねえ…」

困ったように微笑いながら両腕にぶら下げていた二人に離して貰った名前は周囲を取り囲んだ小さな子供たちを見回した。誰もみんな名前の胸辺りまでしか背丈を持たない子供たちだ。

「決めたわ」

円らな瞳に見上げられた名前はそれはもう綺麗に微笑んだ。誰に対しても贔屓をしないことをこの数日で知っている団蔵は静かに待った。彼女は平等だ。だからこそは組を選んでくれるだろう。

「今日は、あなたたちとご一緒しても良いかしら?」

満面の笑みを浮かべた名前が手を伸ばした先を見て、やっぱりねと虎若は笑った。天女のおねえさんは誰にだって平等だ。依怙贔屓なんてしない。

「駄目?」

輪から少しはずれたむろする、血色の悪い顔を綻ばせた一団を見てしまっては文句のつけようもないと伝七は首を竦めた。誰もに平等なおねえさんはちゃんと周囲を見ている。



一年生のよい子たちは知っています。
晴れた日に天女のおねえさんは泣きながら落ちて来たのです。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -