ぞくせいは
じめんでどらごんであまえた

はっきり言えば出会いは運命ではなく偶然だった。ポケモンはサヨナラする際に逃がしてやるのが通説で、道端に落ちてるアイテムなんかは拾ったやつのものだ。ダウジングマシンを使っていたら草むらの中でビーコン音がした。お、なんか見付けた。その時はラッキー!程度に考えて草むらに分け入ったおれを待っていたのは少し土の付いたモンスターボールだった。拾ったそれをジャケットの裾で拭って、何の迷いもなく腰のベルトに装着したあの日のおれを一回殴ってやりてえと思う。実に切実に。だって考えてもみてくれよ。ゲットしようと思って投げたボールから新手のモンスターが現れるなんて誰が考える?投げ付けられたムウマだけじゃなくておれも悲鳴をあげた。だって、そうだろ?ライフポイントがゼロに近いムウマをゲットだぜ!と叫ぶ筈が、何の因果か三体目。元々おれが出していたネイティオはまるで興味なさそうに太陽を眺めている。三体目。なにこいつ!みたいな目でムウマがおれを見ている。違うんだ、と叫ぶより早く三体目がおれ目掛けてボディーブローかました。
マジで勘弁してくれ。

「ぎゃおう!」

結局ムウマには逃げられるし、おれは三体目に押し潰されるしで大騒ぎの結果はご覧の通りだ。空だと思って投げたモンスターボールから現れたのはマッハポケモン。マッハだぞマッハ。そいつがボディーブローの要領で腹に突撃してきてみろ。内臓噴き出すかと思ったね、いや少なくとも潰れる。立派なガタイに爪のような手足、そうして膜でも羽毛でもない明らかに硬質の羽。そいつの名前をおれは知っていた。知ってるとは言っても図鑑で見たことがある程度の知識で、誰かが持ってた気がする程度の認識だったが、間違いない。こいつは

「ちょっと離れろガブリアス、重い、と言うより死ぬ!」
「ぎゃうー!」

そうしておれは何の因果かガブリアスにマスターとして認識されたように懐かれた。借り物だったネイティオを返すついでに姉貴に報告すればあの阿婆擦れは下着姿でテレビ見ながら片手でネイティオのボールを受け取るとオムライスを食べながら良かったじゃないのと笑った。何が良いものか!弟の内臓が崩壊の危機でした!捕まえる手間省けて良かったわネエと笑う姉貴を憎いと思った。ほんとに、なんなのこの人!

「ぎゃうぎゃおーう!」
「何言ってるか判んねえし、なんか妙にテンション高いし、もうほんとに何なのこいつ」
「良いじゃない、あんたポケモン欲しくてあたしのネイティオ借りて行ったんだから。神さまからのプレゼントだと思ってありがたく頂いちゃいなさいよ」
「そんな冗談で納得出来るサイズじゃねえだろ」

おれが欲しかったのはムウマとかネイティとか小さくて家庭的なファミリー向けポケモンであって、決してジム戦行くぜ!とかリーグ制覇だぜ!みたいな仰々しい感じは求めてない。落ち着いて考えてみて欲しい。ガブリアスなんてポケモンを一般民家で見掛けたらおれは襲来の可能性を疑う。しかもおれにはバトルの予定なんてサラサラなくて、癒しとしてのポケモンを求めてたんだから調子が狂う。真っ直ぐにおれを見詰めるガブリアスの視線に、ちょっと罪悪感。

「別に外見がバトル用に見えたってそれをどんな風に扱うかはトレーナー次第なんだから、あんたが好きなようにしたら良いのよ」
「でも、」
「この子はあんたが好き!一緒にいられて嬉しい!ってこんなにも身体全体で表現してんだから、答えてやんなさい。まあ、レベル高くてもあんたの言うことなら聞くでしょうし」

食後のカップアイスを食べながら姉貴は尤もなことを言った。どんなポケモンだってマスターの指示に従ってるだけだ。マスターのことが好きで、マスターと一緒にいたくて、マスターのために強くなって、マスターに褒めて貰うのが好きなんだ。善行に使うのも悪行に使うのもトレーナー次第で、ガブリアスを愛玩にしたって誰に怒られる訳じゃない。ただちょっと変わってるねって言われるだけで。ハアと溜息吐いてガブリアスの頭を撫でれば、よく判ってない顔でも嬉しそうにはしゃぐから。おれはもう色々と諦めることにした。



わが家の愛玩ポケモン、ガブリアス



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