05


蛇はマヨナカテレビの内側で起こる全ての事象を把握していた。例えばそれは薄暗いラボであり、それはダンジョンだった。戦う後輩たちを眺めながら名前は蛇と共にやはり何もしなかった。意味なくワイドショーを眺める昼下がりの主婦のように、名前はテレビを見ていた。天国のようだと里中千枝が口にした光景を前にしても名前の心は僅かにも揺らぐことはなかった。

「マハジオダイン」

名前は後輩たちのように武器を持たない。左腕に絡ませた蛇だけが楯であり鉾だった。逃げ惑う赤色の影を雷撃で追い払いながら進む先は上層階で、既になにがあるのか知っていながら一人と一匹は上を目指した。特別捜査隊を組織する後輩たちの手助けをするつもりも、行方不明の少女を救い出すつもりもない。名前はただ見に行くだけだ。言ってしまえば所詮他人事であり、砂糖水に群がる蟻や事故現場を見に行く野次馬のようなものでしかない。

「さあ着いた。嗚呼、本当に。ここはまるで楽園のようだとは思わない?」

蛇は何も言わずに名前の肩に頭を擦り付けた。甘えるような仕草は名前の笑みを誘い、蛇は舌を出し応えた。一人と一匹の眼下には一人の幼い少女がいる。それでも名前は何もしない。助けなければ笑いもしない。声を掛けなければ手も差し延べない。名字名前は堂島菜々子を見捨てることを選んだのだ。

「かみさまなんて代物が本当に存在するなら、ぼくはきっと殺してしまうよ」

名前が望むならと答えた忠実な蛇の頭を撫でながら考える。かみさまは平等でなければならない。一人を救うならもう一人も救うべきであり、一人を救い一人を殺すことは許されない。その行いが許されるなら名前の行いも責められはしないだろう。名前は何もしない。一人が救われようが一人が殺されようが何もしない。倫理観など疾うに捨てた。不平等たれ。なぜなら偶像の神など存在しない。人間を救うのは人間だけで、人間は元来依怙贔屓をするいきものだ。

「あの子は助かるのかなあ。そうだね、きっと、助けるんだろうね」

蛇が眼を光らせた。蛇にとって少女の生き死になど興味の範囲外であり、管轄外だった。名前が望めば争うことも吝かではなかったが、望まないなら動くこともない。名前はかみさまになることを望まない。そうして人間であることも選ばない。まるで背景の一部やオブジェのようにただそこにあるだけだった。だから蛇がその身を刃にすることはない。戦うことを放棄した観客は舞台に上がらない。

「かわいそうに」

少女はただ巻き込まれただけの被害者だ。そんなことは名前ですら知っている。それがどうした、だからどうした。小西早紀 だって同じだった。同じように巻き込まれ、落とされ、そうして死んだ。同じ立場でありながら、順番の早い遅いで生死を分けられてしまうのか。嗚呼。だからこそ名前は眺めている。全てを救おうと足掻いている後輩たちをただ、眺めている。



人間の依怙贔屓



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