03

雨の夜に電源を付けていないテレビの内側へ侵入ることが出来るのだと名前に教えてくれたのはあの蛇だった。生まれて初めての超常現象に興奮するより早く、名前は気付いてしまった。明らかな異空間、明らかな異次元、けれどそこに小西早紀のやさしい香水が香った。名前はいい匂いがすると言った彼女と香水を買いに行った際に名前が選んだノンブランドのものだった。チープな安物だったが、小西早紀の体臭と混じってやさしい匂いがすると名前が言えば、彼女は笑った。それから彼女の匂いになった香りだった。

「そう、ぼくの友達はここで死んだのか」

心配そうに名前を見上げる蛇は今日も左腕に巻き付いていた。案じるような仕草をみせる蛇に名前は小さく微笑み、そうして唇をきつく噛み締めた。彼女の実家を模した酒屋のような空間は歪みながらも美しかった。稲羽の町の複製を失敗したような異空間で、名前は友人の死から初めて涙を流した。慰めるように寄り添う蛇が何度も名前の名前を呼んだ。

「いつかこんな田舎町出て行くんだって言っていた。親にも行く先は告げずに発つけれど、ぼくにだけは連絡先を教えてくれると笑っていた。だからぼくは卒業後も小西の友達で、友達だからいつだって遊びに来ても良いんだって」

蛇が青年の声で名前と名前を呼んだ。甘えるような声音は、まるで小西早紀のようで名前は左腕に絡んだ蛇ごと腕を抱いた。いつかの未来が失われてしまったことを名前は知っていた。彼女が稲羽を出ることもなければ、彼女の家へ名前が遊びに行くこともない。ただ、永遠に小西早紀と名字名前が友達であることだけが、果たされる約束だった。

異空間の癖に、と名前は呟いた。
雨が、降っていた。



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