忍者の話
目の前で大きな口を開けてばくりと団子を頬張る女の子をまじまじと見詰めた。足元には血溜まり、遠目には鼓動も聞こえなくなった壊れた身体が積み上げられている。一本目を食べ終えた彼女が二本目を口に運ぶ。
「わたしが言うのもアレなんだけれど」
「どうした雑渡昆奈門」
むぐむぐと団子を咀嚼しながら落ち着いた声が聞こえる。役目を終えた団子の串はきちんと彼女の左手に握られている。ゴミを捨てて行く気はないようで、妙なところに気を使う女だと思った。本当に、妙なところにしか気を使わない。
「何も、こんなところで食べなくても良いと思わない?」
「どうして」
「んんー。そう返されるとは思わなかったな、予想外」
「わたしは甘いものが食べたかった。買って来てくれたのは諸泉だが、買いに行かせたのは雑渡だろう。此処で食べるべきではないなら、買いに行かせなければ良いのではないの」
「あーうん、そうなんだけど。…つかぬ事を聞くけど、いい?」
「どうぞ」
「それ、美味しいかい?」
恐る恐る尋ねれば、きょとんとした表情で少女はわたしの顔をまじまじと眺めた。そうして手に持った団子をじっと凝視したかと思うと、首を小さく傾げた。年齢相当の可愛らしい仕草だった。
「勿論」
戦場の真ん中で血に染まった装束を気にもせず、赤い手で団子を食べる。彼女を人ではないと言われてもわたしは否定出来ない。彼女を雇ったのは確かにわたしだったけれど、わたしは彼女が恐ろしい。戦場では誰よりも頼りになる有能な忍なのだけれど、一体なにを考えているのか判らない。忍びらしい、忍びだ。
「そういえばね、わたしのお気に入りが忍術学園にいるんだけれど」
「忍術学園?」
最後の団子を串から胃へと移動させた少女は口寂しいのか団子の串をくわえて遊んでいる。仕草だけを見れば町娘となにひとつ代わらない。だからこそ彼女は恐ろしい。
「そうだよ。善法寺伊作くんと言うの。知っている?」
「知らない。けれど忍術学園はよく知っている。わたしの母校だ」
「あ、そうなの?じゃあ知っているかも知れないなあ」
会話を行うために選んだ話題はどうやら正解だったようで、興味なさそうにしていた彼女の意識がわたしを向いた。そこで、上司から聞いた噂話を思い出した。まだ裏もとっていない噂話でしかないけれど、話の種には調度いいだろう。
「なにを?」
「そこにね、天女が降りてきたんだと言う、噂があるのだけれど」
あれ、知らなかった?