迷子は人知れず死んでしまいました

「なにしてんだ、てめえは!」

顔を真っ赤にした作兵衛がおれの手を掴んでいる。痛いだろうが、離せよと言えば離せる訳ねえだろうがこの阿呆と叫ぶように罵られた。おれが一体何をしたと言うのか。おまえが掴んでいる手首が、痛い。

「常日頃から馬鹿だ馬鹿だとは思ってたが、なんでここまで馬鹿なんだ!」
「知らねえよ、そんなの」

常日頃から馬鹿だと思われてたのかおれ、だとか。どうして作兵衛にここまで言われなきゃならねえのか、だとか。ちょっと頭くらくらする、だとか。今日は迷子の世話良いのかな、だとか。なんか作兵衛必死、だとか。色々と考えることはあったけど、取り敢えずもう一回作兵衛に訴えた。

「左手が痛えよ」
「当たり前だろうが、この馬鹿!痛くなかったら人間としても忍としても終わってんだから、痛みがあることに安心しとけ!」
「おお、やっぱ頭良いなおまえ」
「もうほんと黙れ!」

手を真っ赤にして作兵衛が叫ぶ。誰か!と呼ばれてひょっこり顔を現したのは三年ろ組の迷子二人組で、おれはちょっと感動したんだ。おお、すげえ今日は迷子じゃねえんだな。でもよく見たら二人の腰には結わえられた縄があって、その縄の先端を浦風がしっかりと掴んでた。なーんだ、残念。やっと迷子が改善されたのかと思っちまったよ。あーあ、残念。迷子と共にやって来た浦風は作兵衛を見て血相を変えて走り去った。数馬!と聞こえたから多分あの不運な保健委員を探しに行ったんだろう。だって作兵衛の顔は真っ青なのに、手は真っ赤だ。

「てめえ、死んだら承知しねえぞ」
「あ、なんか作兵衛がぶれてる」
「名前っ!」

唇をぐっと噛み締めた作兵衛が苦しそうな顔をしてる。今度は一体なんだ、悪いもんでも食ったのか?おれの心配を余所に作兵衛は名前、名前とおれの名前を呼びながら唇を何度も噛み締める。ああ、やめろよ。切れたら痛えんだから。なあ、やめとけって。視界の端っこで迷子二人組がおろおろしてる。ほら作兵衛、なんか言ってやれ。じゃねえと手綱離されて困ってる。だっておまえ、あいつらの保護者だろ。おれの左手痛くしてる場合じゃねえんだって。なあ。

「名前、死ぬな!」
「勝手に殺すんじゃねえよ」
「…名前、頼むから…、頼むから、おれを置いていくな…!」

ああ、作兵衛が泣きそうだ。噛み締めた唇は裂けちまって血が滲んでる。あ?違う、もう泣いてる。作兵衛が泣いてる。なんで、どうして。おい、誰か慰めろよ。ぽろぽろ泣いてるじゃねえか、なあ。作兵衛、なんで、泣いてんの。

「作、…」
「名前、いやだ、絶対に、いやだ!ちくしょう、そんなの許さねえ…!」

おろおろとしていた迷子二人組までおれに縋って泣き始めた。なんだこれ。おまえら泣いてんじゃねえよ、作兵衛を慰めろ。ああ次屋、目ェ擦るんじゃねえよ。神崎は洟かめ。なんでおまえらまで泣いてんだ。取り敢えず誰か作兵衛を慰めろよ。目が腫れたらどうしてくれんだ。しゃくり上げながら喋ってるから呼吸音が可笑しくなってんじゃねえか。誰か、作兵衛を。

「名前!」



そこでまさかの暗転。





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