肉食獣の生態

「そうねえ、例えばだけれど中指の爪から順に舌を這わせて、未だ節の目立たない指を口に含むの。そうしてゆっくりと抜き差しをするように手首を押さえて、唾液を絡ませた指をしゃぶるわ。しっかりと濡らしたら次は手首から血管を辿って心臓までいくの。肩口には噛み付いて、歯型を残してあげる。心臓に辿り着いたら舐め回して、そこからゆっくりと臍へ降りて、臍の窪まりへ唾液を垂らしたら、そこからは。ねえ、判るでしょう?」

綺麗に笑った名前は作兵衛の未発達な身体をぎゅうと抱き締めた。三之助のようにひょろりと長くもなく、左門のように抱え上げられるほど小さくもない中途半端な身体を腕の中に閉じ込めて、名前は楽しそうに笑った。抱かれた作兵衛の背中には名前の豊満な胸が存在を主張しており、顔を赤らめた作兵衛を楽しんでいるようにも見えた。

「名前、先輩っ」
「ねえ作兵衛はどうして欲しい?あたしにどうされたい?」
「っ」

綺麗な赤い紅が引かれた唇の合間から尚赤い色の舌が覗き、ちろりと下唇を舐めてみせた。まるで誘っているようだった。何をと聞けば良いのか、何も知らない振りをすれば良いのか判らず困惑する作兵衛を揶揄って遊んでいるのだ。上級生による質の悪い悪戯に、揶揄われるばかりでは面白くないと思った作兵衛はニッと笑って余裕を演出してみせた。さあ驚け。

「名前先輩の、好きにしてくれりゃあ良いですよ」
「あら」

見開かれた名前の目に作兵衛は笑みを深めた。してやったり。いつまでも恥じらってばかりの子供ではないのだ。いつかは名前も息を飲むような良い男に、彼女の隣に立っても恥じることのない男になるのだと心に決めている作兵衛にとって子供扱いは喜ばしいものではなかった。子供では駄目なのだ、弟でも駄目なのだ。名前には一人の男として見て貰わなければ、駄目なのだ。

「作兵衛も言うようになったわねえ。少し前までは直ぐに赤くなって怒鳴り散らしていたのに」

感慨深げに溜息と共に吐かれた台詞は作兵衛の成長を肯定するものだった。接吻をするのに背伸びをする必要がなくなったら、言うと決めている言葉がある。その頃に名前は卒業してしまっているだろうが、手放す気はなく探し出して見つけ出して言うのだと決めている。おれの嫁になってください。名前の背丈に届くまで、あと何年掛かるだろうか。

「じゃあ食べてしまうことにするわ」
「へ?」
「可愛いあたしの作兵衛を可愛がるのは、あたしじゃなきゃ駄目よ」
「何…っ、あ…!?」

装束の隙間から滑り込んだ手は体温の低い名前のものだった。そうして作兵衛の白い太腿を弄る手には容赦がない。左腕一本で動きを制限された挙げ句、右腕一本に翻弄されている。作兵衛が目を白黒させながら嫌々をするように頭を振れば、嬉しそうな笑い声が背後から聞こえた。名前は明らかに楽しんでいる。

「どうせなら突っ込んで気持ち悦くしてあげられたら良かったのだけれど。あたしは女で作兵衛は男の子だから仕方ないのよ、我慢して頂戴ね」
「ひ…!」

まるで聞き分けのない子供をあやすように名前は作兵衛の身体を抱いて言った。未だ名前の背丈に至らない身体では暴れるにも限度があった。相手は忍術学園で六年間を学んだくのたまなのだから、床技で勝てる筈もない。上機嫌で身体中を弄る手は時折敏感な箇所を擽っては去っていく。焦らして遊んでいるようだと作兵衛は思ったが口にはしなかった。そんな余裕はどこにもなかった。

「や、名前…っ先輩…!」
「ほら心臓が早鐘を打っている。作兵衛だってあたしに食べて欲しいんでしょう?」
「そん、っな…!」
「大丈夫よ、痛いことなんてしないわ。だってあたしが可愛い作兵衛に酷い真似をすると思う?そんなことはしないの。大事に大事に可愛がって慈しんでそうして愛して食べてあげるからね」
「あ、あ…!」

にっこりと笑った名前は作兵衛の右手を攫い、中指の爪に舌を這わせた。



狩猟者はいつだって雌である。





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