弟の話

雷蔵はいつもわたしの話を笑顔で聞いてくれる。誰にも真似ることの出来ないへにゃりとした顔で笑う雷蔵のことが、わたしは大好きだ。

「それで、三郎の姉上はなんと言ったの」
「勿論、是非連れておいで、とおっしゃったよ!」

嬉しくて思わず抱き着いたわたしの身体を抱き留めながら、雷蔵はへにゃりと苦笑した。わたしが顔を借りたいと言ったときも雷蔵は同じように笑っていた。雷蔵はいつだってわたしの我が儘を許してくれるのだ。だからわたしが助長するのだと苦言を呈するものがいることは知っている。けれど雷蔵は笑って許してくれるので、わたしは頓着しない。雷蔵が許してくれると言うなら、誰に文句を言われたところでどこ吹く風なのだ。

「だから、雷蔵!」

優柔不断だと言われるが、それは雷蔵のやさしさだとわたしは知っている。やさしい雷蔵、わたしの大切な親友!そんな優しさを活かすため、時には強引さも必要だと教えてくれたのは姉さまだった。だから

「今度の休暇はわたしと一緒に姉さまに会いにいこう!」

へにゃりと笑って頷いてくれた雷蔵の背中に腕を回して逃げられなくしてしまう。今日はたくさんたくさん姉さまのことを教えてやるのだ。だって今度の休暇は三人で過ごすのだもの!わたしと雷蔵と姉さまの三人で過ごすのだもの!

「姉さまはとても優しいから、雷蔵もきっと姉さまを好きになる!わたしには判るんだ!」
「でも本当にぼくがお邪魔してもいいのかな」
「何を言っているんだ雷蔵!わたしの姉さまが雷蔵を迷惑に思うわけがない。いいかい雷蔵、絶対だ。姉さまは絶対に雷蔵を好きになる!」

予想でも予測でもない、これは確信だ。わたしの大切な姉さまが、わたしの大好きな雷蔵を嫌うわけがない。それにわたしには確信がもうひとつある。

「雷蔵だって会えば絶対に姉さまを好きになるさ!」

理由?そんなものは要らないよ。だってわたしの姉さまなのだもの!へにゃりと笑った雷蔵にわたしは満面の笑みで答えた。わたしと正反対なようでいて、ひどく似ている雷蔵は絶対に姉さまに惹かれる。絶対だ。黒く艶やかな長い髪に白魚のように品やかな指を持つ、賢くて優しくて美しい、わたしの姉さま。わたしの大好きな姉さま。

「雷蔵は絶対に姉さまを好きになる。わたしにはわかるんだ」

だって雷蔵のことを誰よりも知っているのはわたしだし、姉さまのことを誰よりも愛しているのはわたしだよ。わたしは雷蔵のことならなんだって判るのだもの。ねえ、わたしと雷蔵はよく似ていると思わない?姿形のことではなくて。そう、泣き虫で寂しがりの意地っ張り。わたしも同じことを姉さまに言われたものだ。

「ねえ雷蔵、はやく日が経てばいいのにね!」

わたしは早く姉さまに雷蔵を紹介したくてたまらない。だってわたしは雷蔵のことも姉さまと同じくらいに大好きなのだもの!今度の休暇は姉さまの大好きな茶屋の大福を買っていくのだ。ああ、今からとても楽しみでならない。



「雷蔵、三郎、ちょっと良いか」
「おや、どうしたんだい兵助」
「それが、空から人が落ちてきて、天女さまではないかと学園中が大騒ぎをしているんだ」
「天女さま?」
「おやまあ、それは一体どういうことだい」

とにかく一度見に行こうかと思うのだと言った兵助にわたしが同意すれば、あ!と声をあげた雷蔵が申し訳なさそうにへにゃりと笑った。

「ごめん三郎、ぼくこれから委員会の当番なんだ」
「それは残念!」

珍しい生物を雷蔵と一緒に見物に行こうと思っていたのに。唇を尖らせたわたしに雷蔵は先に行っていてとまた笑った。仕方なく頷いて雷蔵に手を振った。またね、後でね。

へにゃりと笑った雷蔵の顔が、わたしは一等すきだった。




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