女の話

目が覚めたら異世界でした。
なんてそんな、どんなファンタジィ小説?と聞きたくなるような展開に目を回してしまった。当たり前のように忍者がいて、当たり前のように戦争のある時代。炊飯器もなければ洗濯機もない、井戸から水を汲む時代。右も左も判らない世界で、あたしを助けてくれたのは小さな忍者のたまごさんたちだった。

「弱音を吐いている暇があったら飯の炊き方を覚えろ!なーんて」

平和な時代も科学の進歩も知らない子供たちに、不用意なことは口にしないようにと決めた。あたしの常識がこの時代では非常識なのだと三日で気付いた。行く宛てのないあたしを置いてくれている忍術学園は忍者養成学校だった。マッチもライターもこの時代には存在しない。

「おや今日もまた不思議なことを口走っているのだね、お姉さん」
「お姉さん、って三郎くん。三つしか歳は違わないわ。それにあたしは何も知らないのだもの。三郎くんの方がずっとお兄さんよ」

にやりと笑う彼は鉢屋三郎くん。天から落下してきたというあたしを抱き留めてくれた小平太くんよりひとつ年下の五年生。同じ顔形をした不破雷蔵くんの顔を借りているのだと本人から聞いたのは二週間前のことだった。

「年齢を言うならお姉さんはわたしの姉さまと近い筈なのにね。可笑しいの」

最初の頃はあたしの存在に不信感を持っていたような彼らも、暫くすると小さな子供たちから順に懐いてくれたようだった。たくさんの弟がいっぺんに出来たみたいで、とっても嬉しい。

「お姉さん?三郎くん、お姉さんがいるの?」
「そうだよ。今度の休暇は雷蔵と一緒に姉さまに会いに行く約束をしたのだけれど、今からとても楽しみでならない」

雷蔵と雷蔵に雷蔵が。三郎くんはいつも嬉しそうにその名前を口にする。ただ顔を借りている訳ではなくて、三郎くんは雷蔵くんをとても大切にしているのが判る。二人はとても仲良しなんだと他の皆も教えてくれた。

「三郎くんは本当に雷蔵くんのことが大好きなのね」
「!判るの」
「判るよ。だって雷蔵くんのことを話しているとき、三郎くんはとっても嬉しそうだもの」

そうなんだ、わたしは雷蔵のことがだいすきで!と語る三郎くんを微笑ましく見詰める。まるで本物の弟みたいだと思った。可愛くてたまらない。



「こんにちは、天女さま」

食堂のお手伝いとして任されている根菜の皮剥きを行っていたあたしに話し掛けてくれた声はいつも側に来てくれる忍たまの子供たちとは違っていた。顔をあげた先には桃色の忍び装束を着た少女が立っていた。

「あなたは…」
「初めまして天女さま。くのたま教室から食事当番として参りました。何をお手伝いしたらよろしいですか?」

長い髪をポニーテールのように結い上げた少女はあどけない笑みを浮かべて挨拶をしてくれた。おんなのこ。くのたまと呼ばれる少女たちが敷地内にいることは知っていたけれど、なぜか今まで接点らしい接点もなく今日まで来てしまっていた。一人っ子だったあたしは弟も欲しかったけれど、それよりずっと妹が欲しかった。

「あ、ごめんなさい!ぼんやりしていたわね」

味噌汁の具材にと刻んでいた人参を片手にふと考えた。ええと、確かくのたまの子たちは危ないから近寄っちゃダメだとか、くのたまイコール恐ろしいだとか色々と耳にしたけれど、目の前で大人しく大根の泥を落としている子供が、彼らの口にしていたくのたまだとは思えなかった。

「天女さまは、いつも忍たまとばかりいらっしゃるから。わたしたちも天女さまとお話しがしたいけれど、近寄れなくて。だからわたし、今日はとても嬉しいのです」

にこりと笑う少女は文句なしに可愛かった。そうしてあたしはこの世界で初めて出来た同性の小さな友人とお喋りをしながら、大量の人参と大根を刻んでいった。

「そう言えば、名前を聞いていなかったわ」
「はい、天女さま。名前と申します」


名前ちゃん、と呼んで返る反応がとても可愛らしかった。





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