王子様とおれさま


今日も今日とて盛大に転んだクラスメイトを保健室まで運んでやったおれ、超やさしい。その所為で休憩時間が潰れても文句言わなかったおれ、神レベルでやさしい。もうマジ有り得ない勢いで、やさしい。だから少しくらい口が悪くても良いと思う。これで欠点がなかったら完璧過ぎて神に妬まれちまうだろ。だからこの口の悪さは仕方がないことだ。そうに決まってる。

許されろ、おれ。
そして許せ、世界!

「馬ッ鹿じゃねえの、後輩巻き込んで階段落ちとか本気で馬鹿なんじゃねえの!そんなだから生徒名簿に善法寺遺作になるんだろ!この馬鹿!」
「ちょっと、古傷抉るのやめてよ!ぼくの黒歴史なんだから!」
「五月蝿え、黙れ馬鹿野郎。数馬のご両親に詫びに行く準備は出来てんだろうな?ああ?」

ちょっと凄めば途端に萎縮する癖に、頭が悪いのか物覚えが悪いのか毎度のように噛み付いてくる阿呆なクラスメイト、別名不運の星の王子様(笑)善法寺。奴は何かに祟られてるんじゃないかと疑いたくなるほど、運がない。
片や有り得ないくらい不運で傍迷惑だけど柔らかそうな茶色の髪に優しそうな笑顔が素敵な守ってあげたくなるタイプ。片や不良みたいな外見でおれさまの癖にレディーファーストをそつなくこなす頼れるタイプ。そう評して笑ったのは同じクラスの女生徒だ。真逆過ぎてウケるーと笑ったそいつは楽しそうにデジカメで階段落ちの瞬間を激写していた。勿論おれは直ぐさまデータの転送を希望しておいたが、あのアングルは奇跡的だったから卒業アルバムには必ず記載されるよう取り計らっておこうと決める。

「菓子折りは!」
「持ったよ!」
「賞味期限は確認したか!」
「二ヶ月は余裕!」
「詫び状は!」
「認めた!」
「数馬の住所は確認したか!」
「委員会名簿に載ってる!」
「じゃあ…息子さんを傷物にして済みませんでした。ほれ、復唱!」
「息子さんを傷物にして済みませんでした!」
「よし、行ってこい!」
「うん!」

と、まあ勢いよく飛び出して行ったクラスメイトの善法寺遺作氏(笑)が無事三反田後輩の家へ辿り着ける訳がないことをおれは知っている訳ですが、ここは敢えて放置。
獅子は我が子を千尋の谷へ突き落とすって言うだろ?それみたいなモンだ。たぶん。

「最低ですね先輩」
「綾部五月蝿い。それにおれはあいつの妨害工作をしてる訳じゃない。ただ三反田家への道が工事中だってことを言わないだけだし、数馬の親が旅行中で不在だってことを教えてやらないだけだろ。何もしてないのにあいつが勝手に不運を呼び込むんだから、おれの知ったことじゃないね」
「判っていながら助けないのは同罪に該らないんですか」
「そういう博愛精神に塗れたお話は食満に持ってけ。それに四、五回失敗したらちゃあんと送り届けてやるよ。誰もいない三反田家に」
「ひやぁああああ…!!!」

響く悲鳴におれは嬉々として保健室へ舞い戻る不運の星の王子様(命名おれ)を回収に向かうのだ。

「馬鹿馬鹿ばーッか!菓子折り駄目にしやがって勿体ねーの!また階段落ちかよ芸がねえなあ!」

なにあれツンデレ?と嫌そうに呟いた後輩なんて疾うに眼中から消え去り、目の前には涙目の王子様と心配そうに見守る後輩たち。割れた煎餅詰め合わせをしんべヱにプレゼントしてやったおれ、やさしい。嫌がる王子様を横抱きにして運んでやったおれ、超やさしい。もう神すら超越するやさしさ。マジ素晴らし過ぎて惚れるだろ。

さあ遠慮せずに惚れるがいい!





あんたたち本当に付き合ってんの?と聞いて来たクラスメイトにおれは笑顔で当然だろと返したが、交際期間半年の間に同じような質問を何度となく受けた理由だけは未だに判っていない。



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