先生の話

この学園で六年間を学ぶことがどれほど大変なものか、あなたたちは既に知っていますね。

「はーい、山本シナ先生」

だから、と言うのも可笑しな話だけれど。卒業生たちは皆、先生にとって誇りよ。くのたまとして六年間を学び、女性的魅力にも忍者としての能力にも優れた賢い子たち。あなたたちも先輩たちに続いて頂戴ね。

「はーい」

よいこのお返事に頷く。わたしの可愛く賢い教え子たち。無事に卒業していった我が子たちの活躍を風の噂に聞くたび、嬉しくなる。それが特別に目をかけた子であれば、尚のこと。届いた文に頬が緩んだ。

「シナ先生、嬉しそうですね」
「ほんとう、とっても嬉しそう。なにか良いことでもあったのかしら」

最近は塞ぎ込みがちだった上級生たちも、姉代わりの上級生たちに引き擦られるように口数が少なくなっていた下級生たちも、くすくすと笑っていた。優しいわたしの教え子たち。人の痛みの判る賢い子たちもまた、わたしの自慢。

「…先生、」

だからこそ、わたしは教師としてではなく、くのいちとしてではなく、一人の女としてあの少女を憎いと思う。天から降ってきたという少女。自称人間、他称天女さま。

「シナ先生、あたし…悔しい」

六年生だった。気丈な子で、下級生たちの不満も不平もすべて受け入れて場を執り成してくれた子だった。そんな子が、泣いた。わたしの元へ一人来て、夜半に泣いた。好き合っていた忍たまの六年生に別れを告げられたのだと言って、また泣いた。

「あたしが至らないなら仕方ないと諦めます。けれど、他に好きなひとが出来たのだと謝られてしまったら、あたしは一体誰を憎めばいいのですか」

悔しかった。まるでわたしの生徒たちが負けていると言われたようだった。あなたはなにも悪くないのよと諭しながら、抱きしめた。ただ天から降ってきた女のどこが良いのかと問いたくなるほど多くの忍たまが少女に靡いた。その陰で多くのくのたまたちが涙を隠した。ああ憎い。忍びとしての三禁と咎めるよりも憎かった。なにひとつ劣ることのないわたしの教え子たちを泣かせる忍たまが憎い。天女が憎い。

「いつか所帯を持とうと言ってくれたんです。あたしは、あの人に、なにが負けているんですか、教えてください、シナ先生」
「なにひとつ劣ることなどないわ」

突然聞こえた声に振り返れば、桃色の装束に身を包んだひとりの少女が立っていた。目が合えばにこりと微笑んだ少女は音もなく室内へ歩み寄ると、涙を流している生徒の髪を撫でた。幼い少女に髪を撫でられた少女は笑ってみせた。大丈夫よ、心配してくれてありがとうね。いつも下級生にするように微笑む痛々しさに涙が溢れそうだった。こんなにも優しい子が、どうして。

「男など馬鹿ばかりだもの。ねえ、シナ先生」

微笑む少女に髪を撫でられながら、泣いていた少女は眠ってしまった。腕に抱えた少女の重みが愛しかった。そうして脇に立つ少女を見た。二年生の子供たちと同じほどの背丈の可愛らしい外見の少女だった。

「お久し振りです、先生」

わたしは会いに行くと文をくれた卒業生の名を呼んだ。彼女は在学中から優秀な生徒だった。教えることなど何もないほど多くの知識を持った生徒だった。特に変装に関しては一度も見破られたことがないと豪語するほどだった。彼女こそ、わたしが自信を持って送り出した卒業生。相変わらずのお茶目さん。

「鉢屋、名前さん」



少女は満面の笑みを浮かべて、ぺこりとお辞儀をしてみせた。




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