「なにこのクオリティの無駄遣い」

ぺろりとボウルに突っ込んだ指を赤い舌で嘗めながら言ったのは近所に住む三つ年下の幼馴染みだった。今年義務教育が終わるのよとか、今年おれの卒業した学校にエスカレーター式で入学するから制服ちょうだいねとか、夕食の席で母親に聞いた気がする。

「なにって、後輩たちに配るホワイトデーのお返しに決まってるだろ」
「先月も言った気がするけど、一回考えてから発言した方が良いと思うよ。留三郎の学校、男子校じゃん」

隣接して女子校もあることを訴えたが、配る相手が同じ学び舍の後輩であることを既に知る相手には分が悪い。バレンタインデーの際も流行りの友チョコに託けてキッチンに立ったおれに幼馴染みは「女子か」と呟いて呆れていたが、事実なだけに否定は出来ない。いくら性差の垣根が低い現代とはいえ、ネタでもないのにこの気合いの入れようは確かに不気味だろう。

「べ、別に良いだろ、みんな喜んでくれるんだから」
「そういうのは好きな相手にやってやれよ。色気より食い気の連中なら市販品でも良いんだから」
「ぐ…」
「まさか連中だって毎年毎年丹精込めた自作チョコ贈られるとか勘弁だろ。去年なんか福富とおシゲちゃんがそれで揉めたの、忘れた?」
「た…確かに…それは否定出来ないが…」
「だったらそろそろ自重しな、オトメン」

今年のバレンタインデーはチョコレートケーキを焼いて配った。毎年の恒例行事と化したバレンタインデーに苦笑しながら数人が寄越してくれたチョコレートが嬉しくて、お返しをしなければと思い作りはじめたホワイトデー。それが迷惑だったかも知れないと三つも年下の幼馴染みに言われて気付くなんて、もうどうしようもない。

「つーか」

今までの行動が途端に恥ずかしく思えて俯けば、呆れたような声が完成したタルト生地の方から聞こえた。


「他所に愛想振り撒いてる暇があんなら、毎年毎年丹精込めた癖に十五日に自分で片付けてるモンをさっさとおれに寄越したら良いよ」




小学校に入る前から、奴に隠し事なんて出来た試しがない。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -