広がる青空の下で | ナノ
未成年のお酒は絶対にいけない。そう通っている学校の先生に何度口をすっぱくして言われたことだろう。
そして大地から聞いた「酒を飲んだ奴には用心しろよ」という言葉。
恐らく先生の方は私達未成年の体にはアルコール成分が多すぎるお酒は危険だから駄目だという意味で言っているとわかったけれど、大地の言葉はどうしても理解できなかった。でも、今だからわかる…確かに酔っている人は危険で、アルコールは私達にはまだ早いってことが。


「か、佳主馬君!本当に大丈夫?」
「な…なんとか…うっ」


よろよろと千鳥足状態で私の方に寄りかかる様子からして全く大丈夫そうには見えなかった。
気持ち悪さに眉を寄せ、ぐったりとする彼の体を必死に支えながら私は一つため息をつく。

事の発端は今まで私達がいた宴会での事。
よって上機嫌になった万助おじさんが大人子供関係なくお酒をすすめはじめた。
大概は大人だったのでほとんどの人が受け取った。子供達は万里子おばさんが早々に避難させたので無事。
だけど私と佳主馬は避難するのが遅れてしまい見事に酔っ払いの餌食となってしまったのだ。
私はなんとか兄のおかげで酒を飲むことは逃れたけれど、佳主馬の方は自分の師匠という事もあってか完全に拒否することは叶わなかった。
その結果コップ一杯分のお酒を飲まされ顔を真っ赤にして倒れることとなった。

激怒しながら酔っぱらう万助おじさんを怒鳴り散らす、万里子おばさんの顔は今でも鮮明に思い出せる。

夏希先輩と兄に言われるままに半分引きずる形で宴会会場から脱出した私達は今、ひとまず納戸へと向かっていた。
兄がすぐさま水を飲ませたおかげかあまり酒は回らなかったらしい佳主馬。
あの時の兄の素早さは誰もが感心するほどだった。夏希先輩はすごいね!と言っていたし、恐らく彼女の中では少しだけ兄の株は上がっただろう。


「頑張って佳主馬君…あと少しだから」
「う、ん」


もう必要最低限の言葉しか発しなくなってしまった佳主馬を引きずりなんとか目的の納戸へと到着。
崩れ落ちるように彼と共に部屋の中に入り、とりあえずは彼の体を近くの本棚へと寄りかからせる。
酒は先ほどよりも抜けてきているようだけれどやはり辛いのだろう。
試しに額に手を当てれば熱が出ているときのように熱い。息も少しだけ荒いし、水を持ってきてあげた方がいいだろうか。


「佳主馬君、水、いる?」
「……ほしい」


長い髪で隠れた顔の奥から聞こえた絞り出すような声。
それに小さく頷いて納戸から一度出る。


「兄さん」
「あ、静夜。佳主馬君の様子、どう?」
「…やっぱりまだ辛そう。お水貰える?」


宴会会場の一番出入口に座っていた兄に水を催促する。
それを聞いた兄は柔らかく笑ってすぐにコップ一杯分の水をくれた。

お礼を言って納戸に戻ればそこには小さく俯く佳主馬の姿。


「佳主馬君、大丈夫?水持ってきたけど、飲める?」
「…うん」


そっと水を手渡せば少しだけおぼつかない様子ながらも彼は水に口づけた。
こくりこくりと水が喉を通って行くのを見て安心し、私も彼の少し前に座る。
背後からは少し離れた宴会の賑やかさが、夜の涼しい風に乗って届く。
時計を見れば夜の11時。でもあの様子からしてまだまだ宴会は続くのだろう。

全ての水を飲み終わった佳主馬の手からコップを受け取れば、彼は大きく一息ついた。


「どう?前よりは酔い冷めた?」
「ん…なんとか…ありがと、静夜」


少しだけ潤んだ瞳で佳主馬は私を見上げへらりと笑う。
滅多に見れない彼の笑顔と未だに慣れないお礼の言葉に油断していた私の顔にはカッと熱が集まる。
慌てて顔をそらせば彼は首をかしげながら「静夜?」と私の名を呼んだ。


「大丈夫?もしかして具合悪いの?」
「な、なんでも、ないから…気にしないで」
「でも…ほら、顔熱いし」
「ちょ…佳主馬君!顔、ちか…」


ぐっと詰め寄る彼の顔。思わずぎゅっと瞳を閉じればこつんと額に小さな衝撃がきた。
少しだけ瞳を開けば数p先には彼の綺麗な瞳が見える。
その目は酒の影響で少し潤み、顔も赤い。それにつられるように私の顔もだんだんと赤さを増してゆく。


「…静夜?」
「本当に、なんでも、ないから…あの…離れて…」


ぐっと胸を押してみるが何故か佳主馬は私の前からのこうとはしなかった。
それに首をかしげて彼の顔を見れば、ゆらゆらと揺れる瞳の奥に気持ち悪さで浮かぶ苦痛の色の他になにやら違う色が見える。
それはちろちろと陽炎のようながらも確実に彼の中で大きくなっているのがわかる。


「静夜」
「佳主馬君?」
「ごめん、静夜…僕、我慢できない」
「え…なに、いって……っ」


時が…止まった気がした。
かすれたどこか堪えるような声でいきなり謝罪した彼。
その彼の綺麗な顔が今、目の前に迫っている。そして、口に感じる自分の体温とは違う温もり。
それが何なのか気がついたのは、私の体が彼の手によって納戸の床に倒された時だった。


「〜〜〜っ、か、佳主馬君…い、まのって…」
「もしかして、初めてだった?キス」
「あ…う…えと…」


きょとんとすわった瞳で問いかけてくる彼の言葉に、顔の熱が更に熱さを増す。
そんな私に彼は悪戯っ子のような笑みを向けた。
その瞳には先ほど見えた苦痛とは違う色がゆらゆらと揺れている。

(これは…もしかしてすごくまずい状況?)

再度私に顔を近づけてくる彼の瞳を見つめながら問うても答える人はいない。


「ね、どうなの?静夜」
「!やめ、佳主馬君!なにしてっ…!!」
「答えてよ」
「…ひっ」


ふっと耳に息を吹きかけられ今まで感じたことがなかった感覚が体中を駆け巡る。
反応した私に気を良くしたのか佳主馬は口角をにぃっと上げ、まるで小鳥が啄ばむようなキスの雨を降らせる。
額、瞼、頬、鼻、そして最後に口。唐突すぎる彼の行動に付いていけない私はただされるがままになってしまう。


「静夜、可愛い」
「佳主馬君、やめ、一体どうしたの?いきなり」


キスの雨がやっとやみ私と彼はじっとお互いの顔を見合わせる。
ほのかに朱色の頬、濡れた唇。そして決定的なのは…半分ほどに閉じられゆらりゆらりと揺れる瞳。
これは…もしかしなくとも。


「もしかして…酔ってる、の?」
「…酔ってない」
「でも、さっき万助おじさんからお酒飲まされてたし…まだお酒抜けてないんじゃ…」
「酔ってないってば」


つんと唇を尖らせて彼は反論するがその言葉はどこかたどたどしい。
これは…完全にお酒がまわって酔っているのだろう。
目がすわった彼の頬に指を滑らせば、それに甘えるようにすり寄る佳主馬の姿はまるで猫のよう。
やっぱり水を飲ませたとはいえ彼は未成年。お酒は回ってしまったらしい。
ぽんぽんと赤子をあやすように背中を叩けば彼の瞳は次第とトロンとしてくる。


「静夜…」
「なに?佳主馬君」
「…静夜、すき」
「っ!!あ、えと…」
「静夜は?僕の事…すき?」
「い、いきなりそんな事言われても…あれ?……佳主馬、君?」


どう答えていいかあたふたしていると何故かそれ以降彼は口を閉ざしてしまった。
不審に思って肩を揺さぶってみると、彼は糸を切られたマリオネットのように私の上に倒れる。
おそるおそる顔をのぞいてみれば、なんとまぁ幼子のような可愛らしい寝顔を湛えて寝息をかいていた。
その寝顔があまりにも無防備で私は無意識に一つため息を零す。
そしてお酒の影響でいつもより温かい彼の体を優しく抱きしめ、つられるように瞳を閉じた。


「私も…佳主馬君が好きだよ…」


触れるだけの口づけを落とせば彼は幸せそうな笑みを零した。




お酒は二十歳から!
(う…頭…痛い…)
(大丈夫?佳主馬君)
(うん…なんとか、って、な、なんで僕静夜に抱きついてるの!?)
((わー…ベタだなー…))
101217 執筆

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