広がる青空の下で | ナノ
「きもちわるい瞳」


好きでこんな色になったんじゃない。


「きっと化け物の子なんだぜ」


違う。お父さんとお母さんを侮辱しないで。


「こっち来るなよ化け物!」


ねぇどうして。どうして瞳の色が違うだけで化け物呼ばわりするの?


「消えてくれない?気持ち悪い」


嫌だよ。もう嫌だよ。こんな瞳なんか嫌い。
お願い、私を一人にしないで。独りぼっちにしないで。


「近寄るな!化け物!」


大地?君まで私を拒絶するの?
私に言ってくれたあの言葉は嘘だったの?


「静夜、もう、僕に近寄らないでくれるかな?」


兄さん?ねぇ、兄さん!!
まって、いかないで!私を――。

私を…独りぼっちにしないで!!




▽▲▽




「いやぁああ!!」
「静夜っ!?」
「どうしたの?!静夜!!」


まず起きたときに聞こえてきたのは自分が叫ぶ声と焦る二つの声だった。
閉じていた瞳を開けばそこには見慣れた天井。
横には私の顔を覗き込む大地と兄さんの顔。


「はぁ。はっ……ゆ、め?」
「静夜、どうしたんだよ?いきなり叫んで」
「びっくりしたんだよ?」


目を開いた先にはいつもの二人の心配そうな顔。
その瞳にはさっき夢で見た拒絶の光は見えない。
それに何故か酷く安心して、私はゆっくりと瞳を閉じる。


「あ、おい。静夜」
「なにがあったの?静夜」
「なんでも、ない。ごめんなさい。こんな夜中に叫んで」
「いや、それはいいんだけどよ」
「僕等今から寝るところだったし」


パサリ、と汗で固まった私の前髪をどちらかの手がすく。
その手の冷たさが心地よくて擦り寄れば大地の小さな笑い声。


(あ、この手は大地のだったんだ)


ゆるり、と彼の表情を伺おうと瞳を開けばいつもよりも視野が明るく広いことに気がついた。
前髪がない。否、両方に分けられているといった方が正しいか。
ともかく、いつもこの瞳を隠してくれる薄い壁がなくなったことに気がついた瞬間脳裏にフラッシュバックするさっきの夢の光景。
それは夢で見たときよりもより精細に蘇り、私の心の内に眠っていた恐怖心を呼び覚ます。


「っ、いやっ!!」
「あ、おい」


パシンっ、と乾いた音が静かな部屋に響く。
驚く大地の手を払ってしまったことに罪悪感を感じつつ、私はかけられていた布団を顔まで持ち上げぎゅっと握り締めた。


「いやだ…いや、見ないで。お願い…」
「静夜…もしかして、また、見たのか?」
「もしかして、あの時の…」


そうなの?と聞いてくる兄さんの声に小さく頷けば「そっか」と兄さんは呟く。
そして、布団越しに私の頭を優しく撫でた。
心地よい、兄の手の温もりが布団を通してゆっくりと浸透してくる。


「静夜、何度も言っているけど、静夜の瞳は気持ち悪くなんかないし、変でもない。むしろ綺麗だよ?まるで毎朝見る広い青空みたいで、綺麗で透き通ってる」


幼子に言い聞かせるようなゆっくりとしたテンポで綴られる言葉。
それは私があの夢を見るたびに兄さんが言ってくれる、私の心を落ち着けてくれる魔法のような言葉。


「…でも、周りの皆とは、違う。皆は、兄さんや大地は黒い瞳なのに。私だけ、青い瞳」


いつもならばここで兄さんがまた優しい言葉をかけながら頭を撫で続けて私は何時の間には夢の中、というのが普通だった。
でも、今日は彼がいた。布団の中からくぐもった声で意義を唱えれば、ドスッという衝撃と共に被っていた布団をもぎ取られた。
そしてそこから覗いたのは唯一私の隣に自分の意思でいてくれた大切な親友の顔。
大地は縮こまる私の体を起こし、真正面からしっかりと見つめた。


「静夜、違いなんて関係ねーんだよ!綺麗ならそれでいい!!そうだろ?その瞳は俺が見てきた女の瞳の中で一番綺麗なんだぜ?この俺が言うんだから間違いない!静夜、お前の、いやお前は瞳を含めて誰よりも綺麗なんだ!だから、自身もって胸張れ!」


な?と無邪気な子供のように笑う大地。
今まで兄にはいわれたことがなかった、こんなにも荒々しい慰めの言葉。
でもそんな彼の荒々しくも優しい言葉は私の胸にじんわりと染込み、胸をほんわりと暖める。
それはいつもよりも私の恐怖をやわらげてくれて。私の頬は自然と和らぐ。


「…うん。ありがとう、大地、兄さん」
「へへ、いいってことよ」
「静夜が元気になってよかった。今日は大地君もいたしね」
「うん。大地の言葉で元気でた。ありがと」
「っ…は、はは。なんか、照れる」


私の肩を掴んでいた手を離し背を向けてしまう大地。
彼の髪の間から覗く両耳は暗い部屋でもわかるくらいに真っ赤になっているのが見て取れた。
それを見た私と兄さんは小さく笑う。


「大地、照れてる」
「るせっ」
「ははっ。そりゃ大地君さっき物凄いこと言ったもんね」
「え…?兄さん、なんのこと?」
「実はね…」
「ちょ!健二兄さん!言わないでくださいよ!?」
「うん。わかってるって。ちょっとからかいたくなっただけー」
「っはぁ、まじそういうのはやめてくださいって。心臓に悪い」
「え?え?」


顔を真っ赤にして慌てる大地に朗らかに笑う健二。
そんな二人の会話がわからないのか静夜は頭からクエスチョンマークを飛ばす。


「ねぇ大地、さっき言った物凄いことって、なに?」
「え!?あ、えっと…き、気にすんな!」
「気になる…」
「う、ええっと…」


ぎゅっと服を掴んで見つめても大地は視線をキョロキョロと彷徨わせるだけ。
最終的には「あ、明日学校だろ?寝ようぜ!」と話をそらされてしまった。

その言葉に意義を唱えようとすれば半場無理やり布団へと押し込まれてしまう。
しかたがなくそのまま毛布を被れば右に大地、左に兄さんがそれぞれ寝る。
それでも諦めきれない私は体を半分大地のほうへと傾け視線を合わせるように見つめあった。


「大地、さっき言った物凄いこと」
「だーかーら!もう忘れろ!それ!」


あーもー!と頭を抱える大地。
意味がわからないと私が頭を傾げれば後ろから兄さんの笑い声が聞こえてきた。
そして、ぽん、と大きな手で頭を撫でられる。


「静夜、それくらいにしといてあげて。大地君もこのままじゃ寝れないし」
「……わかった」
「うん。いい子だね」


その声と共に二、三度頭を撫でられ兄さんは「おやすみ」と布団を被って寝てしまった。

目の前で頭を抱えていた大地も「ほら、寝ようぜ」と兄さんのように私の頭を撫でた。
その心地よさに小さく瞳を細めればさらり、と前髪を避けられ大地の綺麗な黒い瞳が見える。


「静夜、さっきも言ったけどお前の瞳は本当に綺麗だから。周りのやつらのいうことなんか気にしなくていいんだからな?」


言い終わると同時に私の手より少し大きな手が片方の瞼を撫でる。
静夜はその大地の手に小さく擦りより、ゆるゆると瞳を閉じた。
それを見た大地も柔らかく微笑む。


「うん。ありがと、大地。私も、大地の瞳、大好きだよ」
「え!?」
「おやすみ、大地」
「ちょ、おいっ」


最後の言葉が聞き捨てならず咄嗟に声をかけても時遅し。
静夜はすやすやと小さな寝息をたて始めていた。
彼の手は未だに彼女がその小さな手でしっかりと握っていて取れない。


(もしかしてこのまま寝ろと?)


嬉しいようなそれでいて悲しいような体勢を押し付けられた大地。
それでも思いを寄せている相手と手を繋いで寝れるというのは物凄く嬉しいこと。
緩む頬を押さえつつ、大地はスヤスヤと眠る彼女の頭をそっと撫でた。


「おやすみ、静夜」


小さな部屋に響くこれまた小さなリップ音。
それを知っているのは隣でその全てを聞いていた兄・健二と窓の外で夜空に輝く星達だけ。




星空の下
(一人の少年にできた小さな秘密)
100309 執筆

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