広がる青空の下で | ナノ
しん…と静まり返る室内で、侘助はその口を開いた。


「俺がやったことはただ一つ、機械にモノを知りたいという本能――“知識欲”を与えただけだ。そしたらあちらの軍人がやってきて、実証実験次第では高く買うって言うじゃないか。まさかOZを使った実験だとは思わなかったけどな」


侘助の話を聞きながら、静夜の頭には今までのラブマシーンの行動が浮かぶ。
まず、OZの管理パスワードを流し、返信した相手のアカウントを乗っ取った。そしてOZ内で“混乱”を起こし、それを止めようと挑んでくる様々な強者の“挑戦”を受け、勝利した上でその相手を“吸収”した。自分の見つめる画面の中で、メイヤが光となってあの仏像の円盤へと取り込まれていく光景は、未だに静夜の頭に焼き付いている。


「結果は良好。奴は本能の赴くまま今もアカウントを奪い続け世界中の情報と権利を蓄え続けているんだ。今や奴はたった一体で何百万の軍隊と同じだ。止められないっていうのはそういうこと。もう、手遅れなんだよ」


まるで世間話をしているように侘助は饒舌に話した。夏希が知る限り、彼がここまで饒舌に語ったことは今までに見たことがない。
言葉を失った佳主馬達に代わり、頼彦が侘助に詰め寄った。


「今日、どれだけの人が被害にあった?どれだけの人に迷惑をかけた。あれのせいで世の中滅茶苦茶になってるんだぞ!」


何人、何十人なんてものではない、事は世界を巻き込んだ騒動となり、今もまだ終結を迎えていない。たった一つの機械の介入で、世界はこんなにも混乱に陥ってしまっているのだ。
侘助を見る頼彦の顔は険しい。それは、彼がその混乱の一部を直に体験し関わっているからだ。それを受けてもなお、侘助の表情は涼しいままだ。


「それ、俺のせい?あれはAIが勝手に…」
「お前が作ったんだろ!?お前が何とかしろよ!」
「分かんねえヤツらだな、だから――」
「子供みてえに言い逃れする気かよ!」


邦彦が声を荒げ、克彦もまた怒りを露わにして侘助の襟をつかんだ。怒りのままに殴りつけようとするその腕を頼彦が慌ててつかむ。


「やめろ克!」
「知らぬ存ぜぬで通せると思ってるのかよ!!」
「だから!俺は開発しただけで、機械にあれしろこれしろ言ったわけじゃねえの!!」


流石の侘助もこらえきれなかったのか、声を荒げ克彦を睨みつける。つかみ掛かりそうな勢いの二人の間に割って入ったのは頼彦だった。


「二人ともやめろ!栄ばあちゃんの前で!!」


その一言で侘助の動きが止まる。そして、彼の視線は厳しい顔つきで真っすぐに自分を睨む栄へと向けられた。




一人の開発者と一つの機械
170803 執筆

− 40/50 −

目次
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -