広がる青空の下で | ナノ
一人ではない。大勢の足音が廊下に響く。
その足音は次第に大きくなり――。


「佳主馬君!ちょっとパソコンを…あれ?静夜ちゃん」
「せ、先輩早いです…え?静夜?」
「夏希姉?」
「兄さん?」


閉められていた納戸の扉を開いたのは、少し髪を乱した夏希と…暫くは見れないと思っていた兄の顔だった。



「静夜?ど、どうしてここに…」
「兄さんこそ、どうして…警察署に行ったんじゃ…」


ありえない光景にただただ困惑する静夜。
健二は「あー」とか「えっと…」と歯切れの悪い返事を返しながら頭をかく。
そんな彼に代わるように夏希が、何故健二が戻ってこれたのかを簡潔に説明した。


「じゃぁ、一旦は見逃してもらえるって事ですか?」
「とりあえず、だ。本当にこいつが犯人ならば再逮捕だからな!」


静夜の質問に翔太が不機嫌そうに返す。
それでも彼の瞳にはどこか安心したような色が浮かんでいた。
彼も無実だとほとんどわかっている者を無暗に逮捕などしたくはないのだろう。
ましてやあんな場面を見てしまっては、誰だって嫌でも罪悪感を感じてしまう。

翔太のその言葉を聞き、静夜はゆっくりと健二へと視線を向けた。
健二は少し居心地悪そうながらも、優しく静夜へと微笑みかけた。


「静夜」
「っ、兄さん…兄さん!!」


周りの目など気にせず静夜は健二へと勢いよく抱きつく。
バランスを崩し納戸の中に設置されていた棚に背中を強か打った健二から情けない声が上がっても、彼女は彼から離れようとはしない。
ただ健二に強く強く抱きつき、何度も彼の名前を呼んだ。
何度も、何度も。ここに彼がいるという事を確認するかのように。


「会いたかった…会いたかったよぉ」
「ごめん。ごめんね、静夜」


ボロボロと泣きだす彼女の頭を優しく撫で、健二も少し涙目で彼女を抱きしめた。
静夜は赤子のように声を上げて泣き、健二はそんな彼女を静かに抱きしめる。
誰も立ち入ることができない兄妹のその固い絆を目の当たりにした夏希達は、ただただ静かに二人を見守っていた。




▽▲▽




「お、お恥ずかしい場面をお見せしてすみませんでした…」
「気にしないで健二君、頭を上げてよ」


ゆでダコのように赤面し部屋の隅に体育座り蹲る健二に、夏希は優しく言葉を投げかけた。
いくら妹と再会できて嬉しかったとはいえ、流石に一般人の前で抱き合ってしまい、ましてやそれを憧れの先輩に見られてしまった事の羞恥心で、健二は内心ここから消えてしまいたい程だった。消えられないならば穴を掘って埋まってしまいたいとさえ思う。
更に顔を俯けて小さくなってしまう健二の横では、先ほどまで泣いていた静夜もまた、彼と同じような格好で蹲っていた。
長い髪から見える耳は誰がどう見てもわかるくらいに真っ赤に染まっている。


「静夜、大丈夫だよ。僕達気にしていないし…それに、静夜とお兄さんが人一倍仲よしってのは見てわかるから」


佳主馬がおずおずと声をかけてもピクリとも動かない静夜。
彼が自分を心配しているのは痛いほどにわかるのだが、彼女は今それどころではなかった。

(わ、私…普通の人がいるところでなんて大胆な事をっ)

家でや二人の時は抱き合ったり、頭を撫でてもらったりする事などいつもの事だ。
だが今回は違う。確かに兄がいきなり犯人扱いされ連行と言う今まで経験したことがない形で別れてしまって精神的に弱っていたとはいえ、佳主馬や先輩そして知らない成人男性の前で思いっきり泣いてしまうなんて恥ずかしい事この上ない。

そう考えれば彼女の頭にフラッシュバックする先ほどの自分の行動。それが彼女の羞恥心を刺激し静夜は更に顔をうずめてしまう。
二人して同じ行動をするのは流石血のつながった兄弟といったところだろうか。
お互い考えている事は多少違うとはいえ根本は一緒、「自分達はなんて恥ずかしい事をしてしまったんだ」ということだ。

未だに羞恥心でうずくまる健二と静夜に心底困ったような視線を投げかける佳主馬と夏希。そして、わけがわからないように首をかしげる翔太。
微妙な空気が漂うその納戸の雰囲気をひっくり返したのは一つのテレビ電話を告げる電子音だった。
誰よりも先に気がついた佳主馬がウインドウを開けば、映し出されるのは眼鏡の青年とそれよりも少し若いツンツン髪の少年の姿。


『おい、健二!アイツの情報掴んだぞっ……って、なにやってんだお前も静夜も』
『静夜!あいつの正体わかったぞ!!…って、健二兄さんも静夜も何やってるんですか?二人して』


勢いよく告げたは言いがその用事のある当の本人達が何故がうずくまっている姿を見、二人して首をかしげる佐久間と大地。
そんな彼らに夏希が簡単にこうなった経緯を説明すれば、佐久間は呆れたように溜息をつき、大地は苦笑い。
今はそんな事さえどうでもよくなってしまうほどの情報を手に入れたというのに、この兄弟は相変わらずだ。


『とにかく、今はそんな事どうでもいいだろう健二!さっさと立ち直れ!!お前の無罪が証明できる情報掴んだんだぞ!?』
「え、それって…どういう事?」
『大地がアイツの正体を記した掲示板を見つけてくれたんだ。これを警察に説明すればお前は晴れて無罪放免だ!』
「佐久間先輩…それ、ほんと?」
『本当に本当!俺が見つけたんだから間違いないって!!ちゃんとガセじゃないって証拠もおさえたからな!』


画面の向こうで大地が誇らしげに胸を張る。
先ほどまで落ち込んでいた健二も静夜も、顔色を変えて佳主馬の後ろから画面へと身を乗り出した。
その後ろからは夏希と翔太も二人の話に耳を傾けている。


「それで佐久間、アイツの正体って一体…」
『落ち着いて聞けよ?アイツはまず人間なんかじゃない。アイツは――ハッキングAIだ』




再会と発覚
(ハッキング…AI…!?)
101109 執筆
160424 編集

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