広がる青空の下で | ナノ
ぎゅっと握られた温もりは彼のもの。
それを噛みしめるように静夜はその手に更に少しだけ力を加えて握り返し。
――小さく、笑った。




▽▲▽




「お風呂、ありがとう」
「ううん。迷わなかった?」
「うん、大丈夫だった」


濡れた髪をタオルで拭きながら部屋に戻るといつの間に持ってきたのか、自分のパソコンを操作する佳主馬がいた。
後ろからその様子を覗き込めば表示されているのは変わり果ててしまったOZの世界。
未だにその混乱は続いているらしく、あちらこちらを整備士やその関係者のアバターらしきものが忙しそうに動き回っている。


「やっぱり、少し操作しずらいね、此処」


画面に自分の手を使って影を作りながら佳主馬が言う。
彼の言葉に頷いて、静夜はあたりを見回した。
どうやら、ここは日差しがよく入るように設計されている部屋らしい。
普通に過ごすのならば何の支障もないが、パソコンを操作するとなったら話は別だ。
いたるところから入り込んでくる光のせいで画面が反射し、操作どころの話ではなくなってしまう。


「場所を移動しよう」
「どこか、いいところあるの?」
「僕と静夜が会ったあの場所。あそこが一番日当たり悪いから最適」
「…ああ」


頭に浮かんだのはあの薄暗い小さな部屋。確かにあそこならば太陽の光も入らず、その上日陰となっているので他のところよりも幾分かは涼しい。
パソコンを操作するならば最適の場所と言えるだろう。
そうと決まれば、と手早くパソコンをしまいはじめる佳主馬。
立ち上がった彼の後をついていこうとするとクルリと彼は振りかえり「静夜は何も持ってこないの?」と聞かれる。


「私はいいよ。特に持っていくものないし」
「そう」


じゃぁ行こうか、と歩き出す佳主馬の後に素直についてゆけば見慣れたあの納戸が現れる。


「適当なところに座ってて、僕麦茶持ってくる。静夜もいる?」
「…いる」
「わかった、パソコンは使っていいからね。すぐ戻ってくる」


廊下の奥に消えていった背中を見送り、静夜は起動音を響かせるパソコンを見つめた。
使っていてもいいという彼の言葉に甘えて早速OZのウィンドウを開き自分のもう一つのアバターを出せば途端に現れるメッセージ。
題名には「緊急」と書かれており、差出人を確認すれば差出人は、ダイチ。

(あの仏像の事、何かわかったのかも)

アバターを使ってあたりを見回すがダイチの姿はどこにもない。
それどころか、いつもは沢山のアバターで賑わっているOZの世界そのものがあり得ない程に静まり返っていた。
やはりあの仏像アバターが未だにOZ内を徘徊しているからなのだろう。
誰も好き好んでアレに近づこうとはしない。皆息をひそめあちらこちらに隠れているに違いない。


「どうしよう…」


自分のパソコンは部屋に置いてきてしまったパソコンを取りにいくか。それとも、このまま佳主馬のパソコンを使用させてもらうか。
悩みぬいた末たどり着いた結果は一度アバターをログオフさせ、自分のパソコンを取りにいくという方法だった。
すぐさまアバターをログアウトさせ立ち上がろうと足に力を込めたその時。


「麦茶、持ってきたよ」
「あ、うん」


タイミングがいいのか悪いのか、麦茶を持って現れたのは佳主馬。
一瞬パソコンを取りに行こうかと考えたが、麦茶をせっかく持ってきた彼の行為を踏みにじるのは流石に気がひけたので大人しくパソコンの少しずれた横に座りなおした。
彼はそんな私の横に麦茶を置き「冷えてるよ」と言って差し出す。
お礼を言って受け取れば、またあの時と同じ柔らかな笑みを向けられた。
慣れていないその彼の笑みに頬が熱くなるのを感じ、思わず俯けば目の前の佳主馬は不思議そうに首をかしげる。


「パソコン、もういいの?」
「うん、ありがと」


小さくお礼を言って麦茶を一口飲む。ふわりと柔らかな風が外から入り込み、冷えた麦茶が熱くなった体をゆっくりと冷やしてゆく。
その心地よさに表情を少しだけ和らげた静夜を見て、佳主馬は小さくほほ笑んだ。


「それにしても…」


持ってきた自分用の麦茶を飲みつつ、佳主馬は画面に小さなウィンドウを沢山開く。
そのほとんどがあの仏像に対する情報などを載せている掲示板。
随時更新されてゆく記事に目を通しつつ、佳主馬は眉間に小さく皺を寄せた。


「アイツの正体、まだ誰もわかっていないみたいだね」
「アイツって、あの仏像?」
「静夜も見たの?」
「うん」


見たというよりも一度戦った、という言葉は呑み込み、小さくうなずく。


「じゃぁさ、見た?あれも」
「何を?」
「キング・カズマとあの仏像の戦い」
「…うん。見た」


ゆっくりと言えば彼の瞳が少しだけ悔しそうに細められる。
何故そんな事を聞いてくるのかと問えば少しだけ言葉を濁すように口をもごもごさせるだけ。
そんな状態が暫く続き、これは聞いてはいけない事だったのだろうか、と静夜が思いはじめた時。


「…あれは、僕なんだ」
「…え」


思わず聞き返えせば今度は一語一句ゆっくりと、そして此方をしっかりと見つめ、佳主馬は言った。


「キング・カズマは、僕なんだよ」




告白
(君の瞳に映る僕は今)
(しっかりと君を見れているのだろうか…)
101003 執筆
160424 編集

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