広がる青空の下で | ナノ
 まず初めに出会うのは兄の憧れである可愛い先輩。学校のアイドル的な存在で、とてもスタイルがいいらしい。


「でね、夏希先輩は――」
「兄さん、分かったからもう寝かせて…」

(もう夜中の12時だよ)




▽▲▽




 東京駅にある鈴。それの正式名称を私の兄は知らないのだろう。やたら「駅にある鈴、駅にある鈴」と呟いていたのが何よりの証拠だ。

 朝早く起き、電車を乗り継ぎ、私達は今まさにその鈴がある場所へと向かおうとしていた。
 兄の服装は安物のポロシャツとジーパン、リュックサックという平凡な格好。対する私もそれほど変わらず、真っ白なワイシャツにジーパン、そして兄と同じ色と形のリュックサックという格好。
 これだけで、私たち兄弟の服に対する無頓着さが見て取れてしまう。

 ザワザワと騒がしい人の列。久しぶりに見た沢山の人に目配せをしながら私は目の前を行く兄についてゆく。目の前を歩くその兄の足取りはいつもよりも何倍も軽く、速い。小さな鼻歌まで聞こえてくる。
 静夜はそんな上機嫌の兄を見て、その口角を上げ小さく笑いを零した。


「あ、健二君。こっちこっち!!」
「先輩!!」
「わっ!?」


 可愛らしい声が聞こえたかと思えば繋いでいた手が一気に一方向へと引っ張られた。危うく倒れそうになりながら、私は走る兄の後に続く。繋いでいる手は絶対に離さない。

 バタバタと少々煩い足音を立てながら私と兄はある場所へとついていた。


「遅れてすみません」
「ううん、時間ピッタシ。佐久間君ならこうは行かなかったかも」


 うふふ、と可愛らしい声が兄の前から聞こえてくる。私は聞こえてきたその可愛らしい声の発言の中に、知り合いの佐久間先輩の名前が出てきたことに若干驚いた。が、兄と佐久間先輩は同じ部に所属しているので兄を知っているのならば佐久間先輩とも知っているのは驚くことでもないかと瞬時に判断してその驚きを引っ込める。

 思い切って顔を覗かせれば目の前にいたのは可愛らしい長髪の女性。ノースリーブのシャツとホットパンツ、ステッチハットというラフな格好だった。そのすらりとした腕や足は細く綺麗で、確かに、これならば兄が惚れてしまうのも納得がいく。
 私が顔を覗かせたのが見えたのか、その“夏希先輩”は私の方を見て「あら?」と声を上げた。


「その子、健二君の妹さん?」
「え?あ、はい!静夜って言うんです。ほら静夜、あいさつ」


 先輩と話が出来て嬉しいのか兄の顔は周囲満面の笑みだ。傍から見れば少々怪しい人にも見えなくはないかもしれない。そんな上機嫌な兄の手により、私は半場無理矢理に彼女の前へと引きずり出されてしまう。目の前には優しげな笑みを浮かべる“夏希先輩”。

 知らない人の前に出されると言うのは、人見知りの私にとってはかなり辛いので瞬時に逃げ出したい衝動に駆られたのは秘密だ。


「小磯 静夜です。いつも兄がお世話になっています」


 ペコリと軽く頭を下げると夏希先輩は「そんなことないよ」と明るく返事をする。


「篠原 夏希です。私のほうこそ、健二君には、パソコンの事とかで何かとお世話になってます」


 そんな言葉を彼女が言えば後ろの兄から発せられていた歓喜のオーラが更に大きくなる。そして歓喜のオーラを放ちながら、兄は若干照れながら私の頭を優しく撫でた。まるで「よくやったね」と言うかのように。その手の暖かさに私は長い前髪の奥で気持ちよさそうに目を細める。

 兄さんが嬉しそうでなによりだ。嬉しそうな兄を見ると私までもが嬉しくなってしまう。


「ふふ、静夜ちゃんと健二君ってすごく仲がいいのね」
「はい!それはもう、一心同体のような仲ですから!」


 それは少し言い過ぎではないだろうか。

 目の前の先輩も少し引き気味に笑っているが兄は気が付いてないようだ。周りの空気が伝わるようにと白い目で見ても夢心地の兄はそれに気が付かない。しかたがないのでほおけている兄のむき出しの腕をこっそりとつねってやった。


「いたっ!!」
「へ!?ど、どうしたの?」
「あ、いえ、なんでもないです」


 恨めしそうな兄の視線は全力でスルーし、いい加減出発しないのかという様に袖を引けば兄は慌てて先輩に顔を向けた。こんなとき兄弟というものは便利だと常々思う。


「それで先輩、アルバイトって何すればいいんですか?何でもやりますから、任せてください!」
「う、うん。なんか、今日の健二君キモチ悪いくらい元気ね」
「はい!……え?」
「でも、ありがと。それじゃぁ早速……」


 言葉を濁らせ先輩は自分の足元へと視線を落とした。私と兄もそれに続く。
 そこにあったのは沢山の荷物の山。大きなバックだけならば旅行の荷物と言い切れるが、その他にもウクレレやお面、花火などが入った紙袋もある。その数、ざっと紙袋だけでも八つ。小さく兄の顔が強張ったのを私は見逃さなかった。


「お願い、できるかな?」


 満面の笑みで言われては先輩にベタ惚れの兄が断れるわけもなく。とりあえず私も、紙袋一つだけは持ってあげることにした。




先輩との出会い
(兄さん、大丈夫?)
(う…ちょっと、無理っぽい、かも)
(健二君、頑張って)
(はい!頑張ります!!)
(……単純だ…)
150328 編集


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