広がる青空の下で | ナノ
パソコンに映し出された掲示板にはキング・カズマに対する陰湿な悪口や批判の声でいっぱいになっていた。


「なにこの、ひどい書きこみ」


健二が眉を顰める。その横で一緒に掲示板を見ていた佳主馬はただ一言。


「いいんだ、慣れてる」


吐き捨てるように言い放った佳主馬の顔は、少しだけ悔しそうに歪んでいた。




▽▲▽




慣れている、そう言ったきり一言も発さなくなってしまった佳主馬。健二は彼にどう声をかけていいのか分からずうろたえ、しばらくして重い口をゆっくりと開いた。


「気にすることないよ、ゲームなんだし」
「ゲームじゃない、スポーツ。戦いだ」


できるだけ明るく。そう意識して発した健二の言葉は佳主馬の真剣な言葉につぶされた。すぐさま縮こまってしまう健二、佳主馬は彼の方を見ずにただ淡々と言葉を紡ぐ。
その瞳にはまるで何も映っていないかのように光が見えない。今まで沢山の勝利を収めてきた彼にとって、今回のあまりにも一方的な敗北は相当なショックだったのだろう。


「プロとして満足な結果がだせなかったんだ。当然の評価だよ」


新しく表示された手紙受信画面には、多くのスポンサーからの契約解除の手紙がぎっしりと映し出される。その数から、彼は本当にあのキング・カズマの中の人だったのだと健二は息をのむ。


「それに、ゲームだバーチャルだって言い逃れできる状態じゃないのは、お兄さんだって一緒でしょ?」
「…え?」


チラリと隠れていない瞳が鋭く健二を捕らえる。
言葉の意味を理解できず健二が首をかしげると、不意に荒々しい足音が陣内家の廊下に響いた。その数は一人ではない、複数の人間がこの納戸へと向かってきているようだ。


「いたぞ!」
「へ?うわぁああっ!」


翔太の声が聞こえたと同時に、納戸の中へとまるで雪崩のように押し寄せてきた陣内家の人々。
驚いてのけぞる健二、佳主馬はパソコンを守るように抱きしめ、納戸の奥へと避難する。そんな彼等の前で各々に叫ぶ陣内家に交じり、夏希がひょっこりと顔を出した。


「ごめん、バレちゃった」
「逮捕だぁあああ!!」


申し訳なさそうに手を合わせる彼女の下で、翔太の一際大きな声が家中に響き渡った。




▽▲▽




とりあえず狭い納戸にいつまでもおしくらまんじゅう状態でいるわけにもいかず、全員居間へと移動する。
そして家族総出で用意されていた食卓をかたし、親族会議という名の尋問が開始される事となった。


「まったく、なんでこんな嘘つくのよ!?」


眉をキッと吊り上げすごい剣幕で怒る万里子。
彼女の前には肩を並べて、畳の上に正座した夏希と健二がいる。二人とも申し訳なさそうに頭をうつむかせ、小さく「ごめんなさい」と言った。


「嘘までついて、おばあちゃんが喜ぶと思うの!?」


万里子のその言葉に、夏希は自分の少し後ろでお茶をすする栄を見る。
栄はそんな夏希を一瞥し、やれやれといった様子で再度涼しげな顔でお茶をすすった。


「プロフィール聞いたときから怪しいと思っていたのよねぇ」
「あ、そういえば旧家の出でアメリカ帰りってどこかで…」


理香の言葉に直美がふと首をかしげる。
ちょうどその二人の向こうではアイスを食べる侘助が何事かと此方を見に来ており、二人の視線は彼へと注がれた。


「「そうだ、侘助!」」


ギクリ、と健二の隣でうつむく夏希の肩がふるえる。
健二が何事かと彼女の顔を窺おうとするが長い髪に隠されて見ることはできない。だが、そこからのぞく耳は傍から見てもわかるくらいに真っ赤に染まっていた。


「そーよ、翔太よりもいっつも侘助にくっついて」
「幼稚園児のくせに恋占いとかしちゃってさ」
「おじさんと私って題名で作文も書いていたわよね」
「っもうやめてぇえええ!」


とうとう羞恥が頂点にまで達したのか、顔を真っ赤にした夏希が叫ぶ。そのあまりの慌てように健二はポカンと口をあけてしまった。

だが、今の彼女にはそんなこと関係がなかった。様々な人から尊敬と憧れの眼差しで見られている夏希。それがこんな形で自分の過去を後輩の前に立て並べられては、生き恥もいいところだ。


「全部わすれてぇぇええ!」


熟したトマトのような顔を手で覆い隠し、丸まってしまう夏希。そんな彼女を見て理香と直美が悪びれた風もなく「なるほどねぇ」と言った。
壁に寄りかかりその一部始終を見ていた侘助はまるで他人事のように「シシシ」と笑う。


「んなことはどーでもいいんだよ!それよりも重要なのはこいつが犯罪者だって事だろ!!」
「確かに」


怒鳴り散らす翔太に直美が同意し、万里子が困ったように「そんな人うちには置いておけないわ」と呟く。
健二の横では夏希が未だに真っ赤な顔で地に伏せている。若干心配なところだが今彼女に話しかけるとおそらく追い打ちをかけてしまう結果にしかならないだろう。


「あんた、警察でしょ。身柄確保くらいしなさいよ」
「あ、そっか」


翔太は納得したように手を叩き、健二の腕を掴む。そして、健二の手には冷たい無機質な音を立て、手錠がかけられた。


「12時30分。罪状は…えーと…」


罪状は、と悩み始める翔太。冷たい手錠を絶望的な瞳で見下ろす健二。と、不意に縁側から小さな足音がし、縁側の向こうから見慣れた姿が顔を出した。


「にい、さん?」
「っ、静夜」


彼女にだけは――自分のこんな姿を見てほしくなかったのに。




犯人逮捕
(うそ、だよね…?)
(ごめん、静夜)
100824 執筆
151213 編集

− 27/50 −

目次
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -