広がる青空の下で | ナノ
皆が一言も発さず見守る中、異様な威圧感を放つ仏像が突如動いた。
振りかぶられる拳、それを向けられたキング・カズマはとっさに受け止める。拳と拳がぶつかり合った風圧で地面が揺れ、キングの耳と仏像の袈裟がはためきあう。二人の、激しい攻防戦が始まった。




▽▲▽




仏像の動きは偽ケンジの時とは比にならない程に素早かった。そして、素早いだけではない。繰り出される一撃一撃が重いのだ。
まるで一発一発が、鈍器で殴られるかのような重い衝撃と攻撃力を秘めている。だが、そんなことでやられるような兎戦士ではない。
彼は今まで様々な相手と戦ってきた経験がある。重く素早い攻撃能力を持った相手とも彼は何度も戦ってきた。昨日だって、彼は自分と互角の相手と戦った。

だから、こんな奴に自分が引けをとるはずがないという確信があった。だが…。


「な、なんなんだ、コイツ――」


兎戦士の瞳が僅かに見開かれる。一度距離をおき、素早く構えをとる。目の前の仏像もそれに合わせるかのように構えをとる。
普通ならばここで少なからずもお互い別々の構えをとるはずだった。だが、二人の構えは動作の一つ一つすべてが一緒。まるで鏡に移したかのようにその動作が一緒だったのである。


「コイツ、僕の戦術をっ…」


まさにコピーしているとでもいうかのようだ。
勢いよく地を蹴り放たれる兎戦士の攻撃。それを真正面から受け止め、仏像はニヤリと顔を面白そうにゆがめる。
危険を察知した兎戦士が後ろへと飛べば、次は自分の番だとばかりに仏像は地を蹴った。

次々に繰り出される素早い攻撃。それを拳、膝、蹴りでガードしてゆく兎戦士。

遠目にそれを見ていたケンジからすれば、どの攻撃も早すぎて両者が互角のように思えた。だが、戦っている本人からすれば違うようだった。


「くそ…!速いっ…!」


カズマが舌打ちをしたことによって、彼が苦戦している事がわかる。
兎戦士の蹴りが仏像にはじかれ彼は後退する、だがすぐさま反撃とばかりに地を蹴った。仏像もそれに合わせるかのように身を沈ませる。筋肉質な足が地を蹴り中を舞った。
キング・カズマの得意技、サマーソルトキックが仏像に向かって容赦なく繰り出される。

しかし――。


「うああっ!」


先に敵を捕らえたのは、仏像が放ったサマーソルトキックだった。
その重い一蹴りに兎戦士の体は地へと叩きつけられる。


「こいつ――」


得意の速さで負けたことで、キング・カズマの目つきが変わる。
自身のプライドを傷つけられた兎戦士が受け身をとり、素早く立ち上がろうとしたその時。がくん、とカズマの動きが固まった。




▽▲▽




佳主馬の手がキーボードから離れた。


「それなにー?」


ゲーム好きの真悟が健二の腕から抜け出し佳主馬に飛びついたのだ。
今までPC画面に集中していた二人は、子供二人の存在をすっかり忘れていた。動揺した健二の隙を見て、真悟に続き祐平もPCへと近づく。


「格ゲー?」
「やらせてやらせてー」
「やめろっ離れろ!」


ガチャガチャとキーボードが悲鳴を上げる。好き勝手に思い思いのキーを触り始めた二人を佳主馬が必死にひきはがしにかかった。健二も慌ててそれに加制する。
健二が暴れる二人を引きはがし、佳主馬が飛びつく。だが――時、すでに遅し。




▽▲▽




仏像の拳がキングの顔面へと突き刺さっていた。続いて膝蹴り、肘打ちと立て続けに仏像の攻撃が兎戦士を襲う。
兎戦士のゴーグルが割れ、ダウンジャケットが敗れ、耳が激しく揺れる。
反撃を一切許さない猛功が、ついに兎戦士を地に沈ませた。


「う、そだろ…」


ダイチの小さな声がやけに響いた。OMC王者、キング・カズマが大の字に身を投げ出し、動かなくなる。


「……。」


ケンジはただただ呆然とその様子を見るしかなかった。今まであんなにも大歓声を上げていた野次馬も、今はケンジと同じようにただその光景を無言で見続ける。
その瞳にはありえない、という意思がありありと見て取れた。
その中でただ一人、しっかりと仏像を見据えるメイヤを除いて。
そんな彼女の視線に気付いたのか、仏像は僅かにメイヤへと視線を向ける。だがその視線が長く交わることはなかった。


『K.O!』


場違いに甲高い機械音のアナウンスが響き渡った。文字通り、仏像の背後に“CHALLENGER WIN!”という文字がでかでかと浮かび上がった。
それと同時に倒れたキング・カズマの腰からチャンピオンベルトが消滅する。

だが、仏像の行動はそこで終わらなかった。


「……!」


バトルに勝利した仏像が眩い輝きに包まれる。それと同時に背負ったルーレットが猛スピードで回転し始めた。
光はさらに増してゆき――倒れたキング・カズマの体がふわりと浮かび、ゆっくりと仏像の方へ引き寄せられてゆく。


(な、何をするんだ…?)


悩むケンジの頭に一つの嫌な予感がよぎる。

まさか――。


「やめろぉおおおっ!」


小さな怒声がOZ全体に響き渡った。




キングの敗北
(メイヤ!?)
(よせっ馬鹿!)
100820 執筆
151213 編集

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