広がる青空の下で | ナノ
 何事もなく始まった夏休み。今年も何もなくだらだらと過すと予測していたその夏休みは、兄のある一言によって、壮大な大冒険へと姿を変えたのだった。




▽▲▽




 静かな部屋の中で無機質な機械音とタイピング音がリズムを奏でる。青白い光にぼんやりと照らされる室内は、今年最も暑いというこの日でもひんやりと冷たい。
 その原因は部屋の隅に設置された一台のクーラー。その口からはとめどなく冷たい冷気を纏った風が吹き出している。そんな室内の真ん中には一人の少女が胡坐をかき、一台のパソコンの上で指を滑らせていた。
 光る画面にはその画面いっぱいに不思議な建物が写り、その端には小さな耳が付いた女の子の画像が新窓で表示されている。


「……!」


 突如滑らかに動いていたその指が止められる。少女は今まで俯いていた顔を上げ、静かに目の前のある扉を見つめた。が、その瞳は長い前髪に遮られまったく見ることはできないが。


「――!――静夜!…静夜!!」
「おかえり、兄さん」


 勢い良く扉を開け、肩で息をしながら入ってきたのは一人の青年。
 その額には汗の粒が浮かび、よほど急いできたことを物語っていた。
 だが、その表情は疲れているより、むしろ嬉しそうに輝いて見える。アニメにしたならば周りにはきっと、沢山の花々が咲き乱れていることだろう。

 少女――小磯 静夜はそんな青年――小磯 健二を見上げ、ゆっくりと口を再度開く。


「何かいいことでもあったの?兄さん」
「うん!うん!!」


 嬉しそうに何度も首をブンブンと振る様はまるで小学生のよう。静夜もその兄のあまりの喜びように思わず口元を緩ませる。

 そして無言でその先を言うように催促すれば、目の前の自身の片割れは嬉しそうに話し出す。


「明後日からね、アルバイトとして夏希先輩の実家に一緒に行くことになったんだ!!」
「……え?」


 じりじりと熱い夏。それは突然に幕をあげた。




突然の旅行宣言
(あ、勿論静夜も一緒だよ?)
(……明後日?)
(うん!)
(流石に唐突すぎるよ、兄さん)
150328 編集


− 2/50 −

目次
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -