広がる青空の下で | ナノ
瞳を開くと、私の体は中に浮いていて、下には小さな子供が一人泣いていた。


(これは、夢?)


ふわりふわりと浮きながらその子の前に降り立つ。自分と一緒のブラウンの髪。ボロボロの小さな体。まだそんなに長くはない前髪。
ああ、そうだ。この子は――。


(昔の私だ)


そう確信した途端、その子供と目が合った。




▽▲▽




闇一色に染まっていた空に赤みが差し、眠っていた小鳥たちが歌いだす。
うっすらと瞳を明ければ見覚えのない天井が見え、横を見れば少々おかしな格好で兄が気持ちよさそうに寝息を立てていた。まるでさっきまで起きていたように、辺りにはなにやら数字の羅列が描かれた紙が散らばり、手には愛用のペンが握られている。どうやら私が眠った後も兄は起きていて、何か計算をしていたらしい。
この様子だと、その問題が解けてその安心感と満足感からすぐに船を漕ぎ出したといったところか。

兄の足元にまで無残に蹴り飛ばされた掛け布団を直してやって、静夜は静かに息を吐く。


「…嫌な夢」


昔の自分が出てくるなんて思いもしなかった。
ゆっくりと体を起こし近くに置かれていた兄の携帯を開いて時間を確認すれば朝の5時。いつもなら6時や7時まで寝ていた私にとっては、はじめての経験だった。


「大地、起きてるかな」


「時間なんか気にしないで連絡寄越せよ」と数日前に言った青年の顔を思い出しパソコンを取り出す。だが、パソコンの起動温などで熟睡している兄を無理矢理起こすのは可哀想かと思いなおし、静夜は足音を殺して縁側へと出た。
そこから少し歩いてみると、家の裏側のような場所へと辿り着く。
目の前に広がる壮大な景色。静夜はそんな景色を数秒見つめ、そしてゆっくりとその場に腰を落としてパソコンの電源を入れる。
静かな空間に響く独特の電気音、次第に明るくなってゆく画面。それを静かに見つめながら一息、息を吐き出す。
そしていつものようにログイン画面に数個の数字を打ち込んでOZ内へと入った途端。


「なに…これ」


静夜の手が、止まった。




▽▲▽




鍵穴から飛び出した白猫――メイヤはその光景を見た瞬間、操り主の声に反応し驚いた表情を浮かべた。
それもそのはず、今彼女の目の前に広がっているのは確かにOZの世界でありながらいつものOZの光景ではないからだ。

あちらこちらに飛び散った家具らしきオブジェ、ありえない速度で回転する情報パネルの列。そして、見るも無残なほどに落書きされた猫のような顔の形をしている中央タワー。いつもみるあの幻想的なOZの姿などどこにもなかった。


「どうなってるの…?」
「メイヤ!」
「ダイチ」


聞きなれた声に振り向くと一匹の犬がこちらに向かって走りよってくるのが見えた。
そう遠くないところから走りよってきたのはダイチ。メイヤは走りよってくるダイチに近寄りぐわしっと勢い良く彼の体をつかむ。


「ちょっと、これどういうことなのダイチ!なんでOZがこんなメチャクチャになっちゃってるの!?」
「お、お、おい、おちつけ、メイヤ。揺らすな!喋れねぇ!!」
「あ、ごめん」


掴んだダイチの体を勢い良く上下に揺すり始めたメイヤにその行為をやめさせるよう指示すると、ダイチはメイヤの手からするりと抜け出し空間へと降り立つ。
そして数回頭をふって息を吐き出すと、その双眸でしっかりとメイヤを見つめた。


「とにかくまずは落ち着け。OZがこんなになっちまった原因は俺も今調査中だ。俺も今さっききたばかりでわかんねぇ事ばっかだからな。なんか見つけたり分かったりしたらPCの方に連絡寄越すからいつでも対応できるように準備しとけ、わかったか?」
「うん、分かった」


的確なダイチの指示にメイヤは素直に頷いた。ダイチはそんな彼女を見て安心したように息を吐く。


「それにしても、一体全体どうしてOZがこんなことに…」
「昨日は特に何かあったわけでもないよな?」
「うん。いつも通りだったよ?普通にOZに行けてたし、こうなるような兆しも見えなかった」
「だよな」


二人、否二匹して首をかしげ考え込む。

昨日は二人が言うようにOZにはなんらおかしいところはなかったはずだ。なら、その原因があるのはダイチもメイヤも寝た時間。
つまり夜中のうちにOZで何かが起こり、現在のOZになってしまったという事。

ダイチは未だにその原因らしきものが考え付かないのか、何度も何度も首をかしげ…不意に。


「あ、そういえばよ。お前のところにはあの変なメール届いたか?」
「…メール?」
「なんだ、知らねぇの?なんか題名に「Solve Me」、日本語訳だと「私を解いて」って記されている変なスパムメールみたいなメールだよ」


俺はすぐ削除しちまったけどさ、とダイチは言う。メイヤは暫く考えた後「あ」と小さく声を上げた。


「確かに、昨日の夜にメールを一件受信してる」
「多分それだな。試しに開いてみろ」
「うん」


メイヤが何もない空間に手をかざせばそこに現れる一通の手紙。他の手紙となんら変わりはない真っ白な封筒が二人の前で静かに漂っている。

軽く腕を横に動かせば手紙は開かれ、中から現れたのはざっと見て約2000桁に相当するであろう数。何の規則性すらも感じさせない、改行すらもしていない膨大な整数の列。


「数字?」
「数字だな」
「でも何かのメッセージみたいな感じもしないし、ただのスパムメールの類なんじゃ…」


数字を見ながら首をかしげていると、不意にOZに表示されいていた一つのTVニュースの様子が他のニュースよりも一際大きく映し出された。
ニュースの内容は今このとき起きているOZ内の混乱についての内容だった。周りでこのOZの変わりように騒いでいたアバター達も、勿論二人も思わずそこに注目する。

ニュースの題名は『OZ大混乱!犯人は高校生の少年か!?』。そして、そこに映し出される犯人といわれる一人の少年の顔。
目元は黒い傍線で隠されているが、メイヤとダイチは例え目元を隠されていようとこの顔を見間違えるはずがなかった。


「う、そだろ」
「なんで、どうして…」
「嘘だって思いたいけど…あれってどう見ても」
「――健二兄さん、なの?」


そこに写っていた少年は――小磯健二だった。




事件発生
(兄さんが、犯人…)
100720 執筆
151028 編集
160416 編集

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