白背景中編&シリーズ | ナノ
その日は風も穏やかな夜だった。


「ごほっ…げほっ…っ、くそ、喉いてぇ」


重い瞳を開いて忌々しげに喉へと手を添える。
俺の視界に広がるのは純粋な白。白、白、白。そこは、天井から床まで真っ白に染め上げられた部屋。
微かな薬品臭さに眉を細め、部屋と同じ真っ白なベットの上で上半身を起こし、得に何を思うわけでもなく無意識に窓に視線を向けた。夜中のせいかそこに広がるのはこの部屋とは対照的な程に漆黒の夜空。
星もない、ペンキを零したような本当に真っ暗な空だった。純白の部屋と窓からのぞく漆黒の空。
何故かそれがあまりにも対照的すぎて小さく苦笑が零れる。


「こんなとこ、俺とは一生関わりのねえ場所だと思ってたんだけどな…」


自分はどれくらいの間、この部屋にいたのだろう。静まり返る部屋に響く自分の空笑いは酷く虚しいものに聞こえた。
腕に無数に絡みつく透明なチューブ。いくつもの点滴。無機質に電子音を奏で続ける機械。それらは自分をここに縛り付ける鎖のように思え、あまりにも滑稽な自分の姿に思わず自嘲的な笑い声を零した。

まるで自分は鳥籠に囚われた力なき小鳥のようだとさえ思った。

そんな事を思いながらふと窓に再度視線を向ければ、この窓から見える空に黒い何かがちらりと見える。


「…カラス、か?」


それにしては大きい。まだ距離はかなり離れて小鳥程の大きさだがぐんぐんと迫ってくるその影は次第に大きさを増してゆく。何かわからないそれに少し興味がわいて冷たい床へと足を下ろす。ひんやりと足から這い上がる冷たさに思わずブルリと身を震わせた。
ひたひたと窓に歩み寄り、おし開けば微かな夜風が前髪を揺らし中へと入ってくる。やはり夜は冷えている。冷たい風が頬を撫でてゆき体の体温を冷やす。俺は再度身を震わせた。そして、「さむ」と小さく零しながら視線を空へ。先ほど鳥のような影を探すために空へと目を向けたその時だった。


「っ!うおっ…」


目も開けられない程の突風が俺を襲った。思わず腕で顔を覆い、数歩後ずさる。ちぎれんばかりにはためくカーテン。俺の体に絡みつくチューブが悲鳴を上げ、風に舞う様に踊る。
その風はまるで俺をあざ笑うかのように吹き荒れ、そして次第にゆっくりと治まっていった。おそるおそる瞳を開けば何故か視界が黒く染まっている。思わず首をひねり、一歩前へと踏み出した。


「なんだったんだ…?」
「…君は、ゴールド君ですか?」


頭上から男とも女ともとれる中性的な声が振ってきた。
顔を上げれば、そこには一人の少女が窓枠に跪く状態で俺の顔を少し上から覗き込んでいた。あまりの近さに思わず身を引けば、少女は俺と同じ地へと降り立ち俺の事など気にした風もなく小さく息を吸う。

瞳全体を隠すようにつけられた漆黒の布。吹き込む風に揺れる薄い透明感のある青い髪。きゅっとひき締められたその唇は水気を帯びていて可愛らしく、顔も体も全体的に小柄。


「質問に答えてくれませんか?…君は、ゴールド君であっていますか?」


透き通るような心地よい声が耳をくすぐり、少女が話すと同時に吹いた風によって柔らかな花の香りが鼻腔をかすめる。
その神秘的な光景に見入りながらも俺がゆっくりと首を縦に振ると、少女は目隠しをしているにも関わらずまるで此方が見えているかのように俺へと真っ直ぐ視線を向けた。彼女の迷いない細い指が俺を指さす。そして、一語一語を刻むようにゆっくりと彼女は言った。


「ワカバタウンのゴールド、君は今日から1週間後に――死にます」


今まで感じた事がないほど冷たい風が…吹いた。


窓辺の訪問者
(こんばんは、死神です)
101122 執筆
110226 編集


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