白背景中編&シリーズ | ナノ
彼――ゴールドに彼自身の死を告げて、明日が丁度その死亡予定日となる。
流石に自分の死が目の前に来ているとなれば少し彼の態度も変わるかと思っていたけれど、彼のその明るさは決して掠れることはなかった。むしろ、その日が、その時が、近まるほどに更に明るさを増しているように見える。まるで、自分の死期を他の者に悟られないようにするかのように。

もうあまり動けなくなってしまった彼が疲れで眠ってしまい、特に何もすることがなくなった彼女はまた、前に彼の親友が来たときにいたように同じ木の上にちょこんとしゃがみ込み考えを巡らせていた。それは…彼の命を取るか、取らないかの選択。


「……私は、どうすれば…」


ぎゅっと胸に手を当て、静かに瞳を閉じる。
本来ならば聞こえてくるはずの鼓動。聞こえてこないソレを感じながら、彼女はただひたすら考える。

自分は、どうしたいのか。
彼を、どうしたいのか。
本当に、彼の命を奪う事ができるのか。

彼女の問いに、生きたい、と真っ直ぐ言い放った彼の瞳は真剣だった。
自分の死期は既に告げられているというのに、それに必死に抗おうとする真剣な瞳だった。


「私は…“死神”に向いていないのかな…」


あんなにも気持ちを直接ストレートにぶつけられては、どんな犠牲を代償を払おうとも彼を生かしたくなってしまう。こんな事を思ってしまう自分はきっと、本当に“死神”には向いていないのだろう。
そしてきっと彼の命を取ってしまったら、その後はずっとその後悔を引きずって行くのだろう。それが、死神の定めだとしても…。

(私は、彼の十字架を背負って、この先進んで行ける勇気がない…)

ならば、いっそこのまま“掟”を犯し、“消滅”してしまっても…いいのではないのだろうか。


「私が“消滅”する事で、彼を生かす事ができるなら…」
「やっぱり、お前ならそう言うと思ったよ」
「え…グ、グリーン先輩!?」
「なまえ、俺達の話し、ちゃんと聞いてた?」
「それに、レッド先輩!?」


突然背後から肩にかかる重力とはまた違う重さ。
自分よりも一回り大きなごつごつした手の先を追えば、そこにいたのは、頭を抱えるグリーンと呆れたような視線を向けてくるレッド。
いつから居たのだろうと聞こうにも、彼等にとっては気配を殺し近づくのは朝飯前の事なので、普通に「気配殺して近づいた」と言われてしまうに違いない。

驚く彼女を相容れない色の瞳で二人は見つめる。その瞬間、二翼分の羽が少女を取り囲むようにして舞った。

それは、何かを警告しているかのように。

そして…二人の青年は、切なそうに彼女を見つめる。

まるで、想いを寄せる者を見るように。

沈黙が支配する中、すまなそうに顔を俯ける彼女。それだけで彼女の答えはありありと見て取れた。暫くして、グリーンはしかたないというかのように大きく息をはく。


「わかったよ。お前が決めた事だ、俺らはもう何も言わねぇよ」
「え…」
「……なまえの、やりたいように、思うようにすればいいよ」
「ほ、本当に、いいん、ですか?」
「…ああ、結局俺等がなんと言おうと、お前はこうと決めたらそれを貫くだろ?止められる資格なんて俺等にはもともとないしな」


少しだけ寂しそうに少女の頭をぐしゃぐしゃと撫でるグリーン。


「我儘を言えば、僕等はなまえに“消滅”してほしくない。…でも、なまえが決めた事なら、止めない」


何かを堪えるように少女の頭をぽんぽんと撫でるレッド。


「っ……ありがとう、ございます」


深く深くお辞儀をすればまた優しく頭を撫でられる。そんな二人の優しさが心地よくて、瞳から溢れだす雫。次第に大きくなってゆく嗚咽を、なんとか堪えようとする彼女を二人は優しく抱きしめた。
レッドは左から、グリーンは右から。彼女の体を優しく抱きしめる。胸に回された二人の腕に彼女が手を添えれば二つの手には力がこもり、二人の背中に生えた翼が彼女達をすっぽりと包みこむ。

まるで、彼女のその姿を周りから見られないようにするように。
この姿は、自分たちだけのものだと主張するように。

そんな二人の腕の中で彼女は泣く。

こんな自分を、こんなちっぽけな存在をずっと支え、手を引いてくれた二人。
悲しい時、静かに話を聞いてくれ、泣きやむまでずっと傍にいてくれた。
任務を初めて達成できた時、まるで自分の事のように喜び、褒めてくれた。
迷った時、様々なアドバイスをくれ、何度も相談に乗ってくれた。

そんな二人の意思を最後の最後に尊重できない自分はなんて自分勝手なんだろう。それでも、そんな自分を「好きなようにすればいい」と言ってくれ包み込んでくれた彼等はなんて優しいんだろう。何度お礼を言っても足りないくらいに自分はこの二人に助けられた。


「なまえ、お前は落ちこぼれでも、役立たずでもない。“自分”をしっかりと持った奴だ。俺等はそんなお前だからこそ、こんなにも手を差し伸べた」
「僕等が君をこんなに気にかけたのは、君だから。何事にも一生懸命で、誰よりも心優しい君だったから…」
「俺等はいつまでもお前の味方だ。どんな事があったって、俺達だけはお前の味方でいてやる」
「悩んだ事があったら聞いてくれればいい、寂しかったら甘えてくれてばいい、僕等は喜んで受け止める」
「お前が決めた事には自信を持て、」
「しゃんと…胸を張って、」
「俺達はそれを後押しするだけだ」
「君は、僕等の大切な子だから」


――だから、最後は笑って?


祈るように紡がれた言の葉に、彼女は小さく頷き、緩まった腕の中で二人へと向き直る。あふれ出る感情が入り混じったぐしゃぐしゃのその顔で、今できる精一杯の笑顔を彼女は浮かべる。


「はい」


“天使”のような、綺麗な笑顔を。


決断の時
(例え“消滅”する事になろうとも)
101203 執筆
110323 編集


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