hit記念企画 | ナノ
外の色が白一色となり、一際寒い風が吹く季節。壁などに入ったひび割れがどこよりも多いこの13舎は、どの舎房よりも寒い。かといって、あまり防寒をしっかりしてしまうと動きずらくなり脱走などをした囚人を捕縛する時に支障が出てしまう。その為私は、タイツやらヒートテックやらを服の下に仕込んで何とかしのいでいた。


「まぁ、それでも寒いものは寒いんだけどね」
「ストーブも付けましたし、もう少しの辛抱ですよ」


もこもこと暖かそうなマフラーを首に巻いた星太郎君が電源ボタンを押して言う。早く暖かくならないかなとストーブの近くにひっついていると、扉を開く音が聞こえた。


「わっ、寒―い。これじゃ凍えちゃうよ」
「うるせぇ、本当は房に直行だったのをお前が駄々こねるから特別連れてきたんだ。文句言ってんじゃねえ」
「あ、主任。おかえりなさい」


ごしごしと腕をこすって必死に暖を取ろうとしている25番君と一緒に入ってきたのは主任だった。慌てて立ち上がって挨拶すると、私を見た25番君が「あ、ナマエちゃんだー!」と嬉し気に走り寄ってきたのでそのまま抱きしめる。


「ナマエちゃん、あったかーい」
「今日はカイロも貼ってるからね。ぽかぽかだよー」
「じゃぁ人間カイロだね!」


確かに間違いではないが、素直に喜んでいいのか謎だったので反応に困る。それでも、緑色の髪を撫でてやれば嬉しそうな表情をしてくれるので、自然と私の表情も緩んでしまう。横から「甘やかすな」と主任のお小言が飛んできたが、今回は聞こえていないふりを決め込んだ。
と、不意にあたりを見回してみる。少し気が付くのが遅くなってしまったが、いつも25番君と一緒にいるあの賑やかで色鮮やかな彼等の姿がなかった。普段ならば、25番君の検診に付き合って全員そろってここに来ている。なのに、いくら見回しても私の視界には嬉し気に私にひっつく25番君しか見えなかった。


「主任、今日は15番君などはついてこなかったのですか?」
「ん?あぁ、なんか寒いからやだとか言って来なかったな」


どかりと椅子に座って星太郎君がいれたお茶をすする主任は、書類に目を通しながら大きなため息をついた。寒いからやだ、なんて彼ららしい理由だとつい私の口からは笑いが零れる。そんな私たちの会話を聞いていた25場君はもぞもぞ動いたかと思うと、ストーブの前に座る私の足の間に体を入れ、背中を預けてきた。男と言っても私よりも彼は少しだけ伸長が低いので、すっぽりと納まってしまう。まるでお人形のようだと思いながら緑の頭を優しく撫でれば嬉し気な声が聞こえてきた。


「ナマエちゃんは優しいから好きー」
「お、嬉しいこと言ってくれるね」
「うん!ここの看守さんの中では一番好き!」
「ありがとう、私も25番君可愛いから好きー」
「わーい!」


きゃっきゃっとはしゃぐ彼は本当に子供のようだ。まだまだ温まっていないストーブの変わりにとぎゅっと体をくっつければ二人分の体温でじんわりと私の体も暖かくなってくる。


「ほんと、ナマエさんと25番君は仲良しですね」
「あんまり甘やかすんじゃねえぞ。そいつは囚人なんだ」
「わかってまーす」


そうは言っても、私が関わる囚人の中で彼は数少ない可愛い子なのだ。こんな貴重な存在を放っておけるはずもない。ほっそりしているといえば、15番君もだが、可愛さは断然25番君が上である。そんな私たちを見て、ふと星太郎君がどこか不思議そうに口を開いた。


「そう言えば、ずっと前から思ってましたが、ナマエさんって25番君の病気の影響を受けませんよね。いつも抱き着いたりして接触が多いのに」
「ん?あぁ、そう言えばそうだな」
「あ、それ僕も思ってた。どうして?」
「簡単です。影響を受けないための薬を飲んでいるんですよ。これです」


三人からの視線を受けながら私はズボンのポケットから小さな錠剤を取り出して見せる。これは御十義先生に何度も何度も頼み込んで作ってもらった特別製だ。理由は、25番君にいつでも触りたいから。その言葉を聞いたとき、御十義先生は呆れた表情をしたが、何度も通って頼み込む私に根負けして作ってくれた。


「まぁ、全てを防げるってわけでもないので、過剰な接触はだめですけど。大抵は大丈夫って言ってました」


そもそも、25番君と会う機会があまりないので、滅多な事では過剰な接触まで行くことはない。「すごーい」と目をキラキラさせながら薬を見る25番君の頭を撫でれば「そのやる気を仕事に向けろ」と主任から呆れた声が飛んできた。


「ちゃんとしてるじゃないですか。でも、それ以上に25番君とくっつきたいという気持ちの方が強いんです。私の執念舐めないでください」
「だから、その執念を仕事に向けろって言ってるんだ」
「無理です」


きっぱりと言い切れば、はぁ、と主任は大きなため息をついた。隣にいる星太郎君は苦笑を浮かべるだけ。彼らにとってはそこまでする価値があることだとは思わないんだろう。けど、価値観は人によって違うもの。私にとって、25番君と遊び、触れ合う時間はとても大切で価値があるもの。だから、その為なら私はどんな方法でも取る。
好きなものに対する執念をなめるなよ、と心の中で呟きながら、温まってきたストーブの熱でふにゃりと表情を和らげる25番君の頭をそっと撫でた。




囚人番号25番が大好きな看守


180312 執筆

投票、ありがとうございました
[目次へ]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -