hit記念企画 | ナノ
赤、黒、白、青、緑、黄色。
蝶、草花、模様、鳥、魚。

様々な着物が並べられ、それが彼の手によって私の体へと着せられていく。その手つきに迷いはなく、青い空を思わせる瞳は真剣そのもの。
新年という新しい年を迎え、普段着ている着物を変えようと言ったのは彼だった。
自分は助手なのだと言って、いつも新鮮組の羽織を羽織った彼の少し後を行く彼――堀川国広。

いつのころだったか、兄弟刀である山姥切国広の手助けで私の仕事をした時から、彼は自分の時間が空いたときにひょっこりと顔をだすようになった。
時には仕事の手伝い。時には雑談。時にはお手玉などの簡単な遊び。時には何もすることなく座布団を枕にして共に眠った。


「兼さんの傍も居心地がいいんですけど、それと同じくらいに主さんの傍もとても居心地がいいんです」


少し前に、なぜこんなにも私の部屋を出入りするのかと聞いたときに返ってきた答えはこれだった。
居心地がいい。何もしなくても、そこにいることで安心する。だから、此処に来るのだと彼は嬉し気に語った。
それは、兄弟刀である山姥切や山伏にも語っているらしく、その話をするときの彼は和泉守の話をするときと同じくらいに幸せそうなんだと、近侍の仕事をこなしながら山姥切国広が零したこともある。
そして、そんな彼は今私の着物選びを真剣に行っている。年が明け、お年玉配りという大きなイベントが終わった頃、またひょっこりと顔を出した彼はどこか楽しそうに私の着物を選び始めた。これもいいが、こっちもいい。主さんにはこの色も似あう。そう言いながら何着も何着も変えては悩む国広。段々と疲れがたまってきては居るが、どこかうきうきとした表情で考える彼が目の前にいるので、私は「疲れた」と言葉にださず彼の好きなようにさせていた。


「できた…!」


それから数十分。ぱんっと軽く手を叩いて彼は満足げな表情で私を見た。少し明るめの青の生地、そこに白い花と少しだけ濃い青色の花があしらわれた着物。それを止める帯もまた白く。まるで、空と海を思わせるような色合い。その色に身を包んだ私を見て、彼は「主さん、とってもきれいです」と言った。私も自分の姿を姿見で見ながら、彼の色のセンスは大したものだと素直に感心する。軽く全身を見るようにくるりと回れば、青の袖がふわりと揺れた。


「今年はこの着物を私服として是非着てください」


あんなにも真剣に考えてくれた着物だ。これで嫌だという返事が出るわけもない。肯定の返事を返せば、彼はぱぁっと表情を明るくした。


「でもほんと堀川君ってセンスいいよね。私だけじゃ、こんなきれいにならないよ」


姿見を見ながらふと零れた言葉。なんの気もない素直な感想だったが、その言葉を聞いていた国広の瞳が少し揺れたのが鏡越しに見えた。


「センス、かどうかは分かりませんけど。主さんを僕の手で綺麗にしたい、そう思いながら選んだから、ここまでできたんだと思います」
「え?」


すっと私の手に伸ばされてきたのは少しだけ骨ばった男性の手。まるで手を取る様にすくいながら握られた手に思わず背後へと視線を向けると、そこには先ほどまで明るい表情を浮かべていた彼ではない、どこか真剣な表情で私を見る国広がいた。
鏡越しでは少し遠く感じた距離も、いつの間に近づいていたのか背中で彼の体温が感じられるほどに近い。


「やっぱり、これはやめにして他の選びましょう。主さん」


鏡越しに私を見つめながら国広は言う。ただただまっすぐに真剣な声で、その青い瞳に私の姿を映しながら。


「こんな綺麗な主さん、他に人には見せたくないです」


だから、他のにして、僕の前だけでこれを着て下さい。
そう言葉を紡いだ彼は、いつもは見ない大人びた笑みを浮かべた。




堀川国広と着物を選ぶ


171117 執筆

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