不意にふいた冷たい風にぶるりと体を震わせる。少しずれてしまっていた上着を、かけなおして小さく息を吐いた。
空は暗く、そこを小さな星々たちが飾っている。目の前に視線を向ければ、そこには雪で一面真っ白な中庭があった。
先ほどまで行われていた新年を祝う宴会も終わりが近い。次郎太刀に付き合って飲んだことで、火照ってしまった体を冷まそうと、一度部屋を出て廊下で涼んでいるがもう少し暖かい上着を持ってくればよかったと後悔した。後ろから聞こえてくるのは刀達の笑い声と潰れてしまった者達の世話をする刀の声。新しい年になってもあまり変わりない彼らの様子に小さく笑いがこぼれた。
「主、ここにいたんだ」
「蛍丸」
ぱたぱたと私の隣にやってきたのは小さな大太刀だった。
「姿が見えなかったから、探したよ」
「ごめん。少し涼もうと思ってね」
私の真似をするように隣に座った蛍丸は、そんな私を見ておもむろに自身がいつも羽織っているマントの裾を私へと差し出した。うまくその意図が読み取れずに首を傾げれば「その恰好じゃ寒いでしょ」と更にずい、と差し出される。
「でもそんなことしたら伸びちゃうんじゃ…」
「平気だよ、これくらい。いつも国俊とやってるから」
でも、と渋る私にしびれを切らしたらしい蛍丸は一度立ち上がったかと思うと、私の膝をまたいで向き合うような形で座る。そしてそのマントで私をくるむようにして抱き着いてきた。
「やっぱり、体冷えてるよ、主」
風邪ひくよ、と少し怒り気味に零しながら背中に回された腕の力が少しだけ強くなる。彼の表情は私の胸に埋まってしまっているので伺うことはできないけれど、きっと少しだけすねた顔をしているだろうと想像はできた。
「蛍丸、ありがとう」
「別に…」
そっと手を伸ばして優しく頭を撫でれば、すり寄ってくる小さな体。抱き着かれたことで、冷えた私の体は彼の体温でゆっくりと温まってゆく。その暖かさを更に求めるように抱きしめ返せば、ぎゅっと背中に回っていた手が私の服を離すまいとするように軽い力でつかまれた。
「蛍丸は暖かいね」
撫でる手を止めずにそう呟けば「主も暖かいよ」と少し籠った返事が返ってくる。それに小さく笑いを零しながら小さな体にすり寄った。と、腕の中で大人しかった蛍丸がもぞもぞと動き、何かと手を緩めれば顔を上げて私を見上げてくる。どうしたのかと首を傾げれば「まだ言ってないことあったから」と言われる。
「主、今年もよろしくね」
その言葉に、そう言えばまだ自分はその言葉を刀達に言っていないことに気が付く。言おうと思ってはいたが、なんやかんやと場の流れで言うタイミングを逃してしまっていたのだ。
「こちらこそ、今年もよろしくね、蛍丸」
年が明けて初めてのあいさつ。なんだかんだ、きっと私は目の前で嬉しそうに笑う刀と共にいろんな日々を過ごしていくことになるんだろうと考えながら、温もりを求めるようにその小さな体を抱きしめた。
蛍丸と新年のあいさつを交わす170211 執筆
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