hit記念企画 | ナノ
ぱたぱたという足音と楽しげな短刀達の声が本丸に響く。そんな音を聞きながら欠伸を一つ零して、私は目の前の書類に向き直った。本当は後ろに敷いてある布団に潜りたいほどに眠いが、この書類だけは終わらせなくてはならない。
例え、今日が新年というめでたい日だとしても、だ。こればっかりは仕事なので仕方がない。新年にちなんで、腕によりをかけていつもより豪華な料理を作っているであろう光忠の声がかかるまでにどれだけこの書類を進められるかが重要だ。きっと食事の後は蛍丸や他の刀に捕まって暫く自室に戻れないことは予想できている。


「それにしても、お年玉かぁ…」


外から聞こえてくるそんな単語にふと意識を昔の記憶へと飛ばす。私も小さい頃は親や親せきなどからもらえるお年玉に胸を膨らませていたものだっけ。毎年変わっていく金額を学校の友達と報告しあい、何を買おうかと様々なチラシや情報を見て思いを巡らせていた日々はもう昔の思い出の一つとなってしまった。今は貰う立場から渡す立場に変わっている分、新年に対する楽しみの気持ちは少しだけ下がってしまっている。


「けどまぁ、この歳でお年玉って言うのもなんか場違いな気もするし」
「何が場違いなんだ?主」


はは、と軽く笑って零した独り言に、不意に返事が返ってくる。びくりと震えて閉まっていたはずの障子へと視線を向ければ、そこからひょっこりと三日月を瞳に宿した刀が顔を覗かせていた。


「み、三日月さん。いたんですか…」
「あぁ、縁側を散歩していたら主の声が聞こえたのでな」


ほけほけと笑いながら静かに部屋へと入ってきた天下五剣は徐に私の隣へと座る。何か用でもあるのだろうかと、疑問を浮かべながら彼に向き直るとゆっくりと差し出される手。そして、そこに乗っていたのは一つの袋。


「お年玉、ですか?」
「あぁ、まだ主には渡していなかったからな」


ほら、と私の手に乗せられるお年玉袋。小さな羽子板が描かれているそれは、少しだけ重さがある。


「でも私、もう貰える年齢じゃないですよ?」
「そんなことないぞ?俺達からすれば、主はまだまだ幼い」


ぽふぽふと軽く頭を撫でながら笑う目の前の三日月。「開けてみてくれ」と促されるままに袋を開けば、手の上にぽとりと落ちてきたのは一つのお守り。
全体が青いそれは私が刀達に持たせているお守りに近い見た目をしていた。


「お守り、ですか…」
「あぁ、最近忙しそうに見えたからな、身体を壊さぬように祈りを込めておいた」


ほら、と指さす細い指の先を視線で追えば、そこには「健康守り」と金の糸で刺繍が施してあった。確かに、最近は年も明けるということもあって、本丸の掃除の指示を出したり、その合間にも通常の任務をこなしたりなどばたばたしていた事は確かだ。彼が言うように体調が最近少し良くないのも確か、けれども、私はそれを他の刀には気づかれない様に気を付けていた。
あれだけいつも通りを装っていたのに、目の前の刀はそれを見抜いた。恐ろしい観察眼だと思いつつも、こういうものをそっと渡してくれる彼の心遣いにじわりと胸が熱くなる。
手の上にあるお守りの形を崩さぬように気をつけながら握れば、その手を覆うように一回り大きな手が添えられる。顔を上げればそこには小さく微笑む三日月。


「俺達を大切に思ってくれるその心はとても嬉しい、だが、それで自分の事を後回しにするな。俺達を大切に思うくらいに、自分の事も大切にしてくれ」


どこか祈るように紡がれた言葉が、ゆっくりと私の胸に染み込んでいく。


「ありがとう、ございます」


小さく零れ落ちた言葉に、三日月宗近は満足そうな笑みを浮かべた。




三日月宗近からお守りを貰う


161003 執筆

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