hit記念企画 | ナノ
「鯰尾藤四郎を近侍から外したいんだけど、どうしたら外せると思う?」
「普通に本人に言えばいいんじゃねえのか?」


 ひらひらと中庭の桜が舞う昼間、私に呼び出された薬研藤四郎はどこか困ったように言った。それができれば苦労はしないし、こんな話を君にしないよと肩を落せば兄貴肌な短刀は経緯の説明を求めてくる。
 確かに、誰でも開口一番にそんな事を聞かれれば何がどうしてそうなったのかを聞きたくなるのは当然の事だろう。かといって、こんなところを近侍の彼に見られれば何をされるかわかったものでもないので、私は少し早口で話をかいつまんで説明することにした。

 今私の近侍を務めている鯰尾藤四郎は、鍛刀された刀の中では初めの方に鍛刀された刀の一人である。最初の脇差として顕現し、そこからはずっと私の近侍兼第一部隊の一人として働いてきた。
 その時の私はしらなかったことだけれど、近侍にした刀程成長が早く、強くなってゆくらしい。それを証明するように鯰尾藤四郎は第一部隊の中でもメキメキと強くなった。それと同時に私の仕事の手助けの技術もメキメキと伸ばして行った。
 しかし、私は彼が苦手だった。彼は他の刀が言いそうもない俗にいう下ネタや禁マークが付きそうな行動や言動をする、その行動を間近で見てきてしまった私は彼に対して苦手意識を持っていた。
 ならば近侍を変えればいい、成長させたい刀は他にもあるだろう、と周りからの助言を受け、何度か近侍の交代を彼にも申し出ている。けれど、それが叶わないのはそういう時彼はきまって「え?なんですか?聞こえませんね」と言って一向に話を聞いてくれないからだ。
 言霊や審神者の力を使えばそれをさせぬように縛ることも出来る。だけど出来るだけそういうことを私はしたくない。あくまで彼らの意思を尊重したいという考えで動いているため、結果此処までずるずると近侍が変わらずの状態が続いているのだ。
 
 けれど、流石に私も我慢の限界というものがある。いい加減近侍を変えて他の刀剣の成長もさせたい。しかし、いつものようにいけばきっと彼は話を聞いてくれることもないだろう。だからこそ、同じ藤四郎の名をもちアイディアをくれそうな薬研藤四郎に相談を持ちかけた、というわけだ。


「なるほどな…」


 一通りの説明を聞き終えた薬研藤四郎は腕組みをしてうーんと唸った。


「私、鯰尾に嫌われてるのかな…」


 ふとそんな事を零せばきょとんとした顔で薬研藤四郎は私を見てきた。


「そんなことないと思うぜ?あいつは嫌いな奴の近侍をこんなに長く務める刀じゃない。少なくとも大将が嫌われてねえって事は俺っちが保障してやる」
「いや、でもさ…何かあるたびに下ネタっぽい発言してくるし、馬糞弄った手で触ろうと追いかけてくるし…近侍交代の理由を話してもそっぽ向いて聞いてくれないし…」


 自分で言っておいてなんだが思い出していくと、どんどん気持ちが暗くなっていく。どんよりとした空気を纏い始めた私を見て慌てて薬研藤四郎がフォローを入れてくれるがそれで落下し始めた気持ちが上がることはなかった。


「とにかく、大丈夫だって。そこらへんは俺っちからも説明してみるから。とりあえず元気出せ、大将」


 そんなんじゃ俺っちの身が危ない、と呟きながらぽんぽんと優しく撫でられる頭。何故薬研藤四郎の身が危なくなるのか私には理解できなかったけれど、同じ兄弟刀から説明を受ければきっと鯰尾藤四郎も聞いてくれるだろう。そんな小さな希望にすがるようにして、私は薬研藤四郎に「お願いします」と頭を下げた。

 数時間後、薬研藤四郎が説得に失敗して、笑顔を浮かべた鯰尾藤四郎に馬糞を構えて追いかけられる未来がやってくるなんて、この時の私には予想などできるわけもなかった。




記憶が燃えた脇差


151117 執筆

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