hit記念企画 | ナノ
 彼が姿を消してからどれくらいの時間が経っただろうか。もう数えるのもやめてしまうくらいの時が過ぎ、私の周りもめまぐるしく変化していった。
 自信過剰な幼馴染はいつしか落ち着いた雰囲気を纏い、その実力でジムリーダーとなった。私はというと、何をするという気にもならず、周りから勧められた仕事に務めてはやめ、務めてはやめ、を繰り返していた。

 周りはどんどん変わっていく。けれど、私はしっかりと地面に足をつけることなく、ただふわふわと浮いているままだ。旅立ったころから変われていない。
 体はしっかりと自分のいたところへ戻ってきているのに、意識はまだ旅先に置いてきてしまっているようなぽっかりと空いた喪失感、それを未だに拭い去れずにいる。


「そろそろちゃんと前を見て歩け」


 それが幼馴染であるグリーンからの言葉だった。わかっている、と返事を返したはいいがそれを実行に移せていないのが現状の状態だ。
 それはきっと小さい頃からずっと傍にあったもう一人の姿がないからだろう。グリーンの持つ緑色と真逆の真っ赤な印象が強い彼。その姿が見えないから、きっと私の心はまだこんなにも浮いたままになってしまっているんだろう。

 自分で降りることはできない。誰かに引っ張ってもらわないと私の足は地面を踏むことがない。けれど、誰彼かまわずというわけでもない。彼に、レッドに引っ張ってもらえないと、私は地面に降りることができない。


「ほんと、どこ行っちゃったんだろう…」


 ぼそりと呟いた言葉は冷えた空気の中に消えていく。散歩と両親に告げて近くの公園に来た私は、特に何をするわけでもなくベンチに座って空を見上げていた。
 キラキラと瞬く無数の星々を眺めながら、旅をしていた時も野宿をしてこんな風に星空をみていたな、なんて昔の記憶を手繰り寄せる。

 あの時は見るものすべてが新鮮で、きらきらと輝くものに見えていた。けれど、今はまるで色が抜け落ちてしまったように周りのすべてが色あせて見える。すべてはあの時から、レッドが私たちの前から姿を消したときからだ。その時から私の世界からは色が抜け落ちてしまった。


「早く帰ってこい、バカレッド」


 こっちは待ちくたびれてもうどうすればいいか分からないのだ。


「バカはないんじゃない?」


 返ってくるはずのない呟きに突然返ってきた返事の言葉。次の瞬間、顔を手で覆う程の強い風が吹く。それがおさまるころ、おそるおそる目を開けば、目の前には忘れることのない赤色が立っていた。別れたときから少しだけ背が高くなっているけれど、その面影は変わっていなかった。


「…レッド?」
「…久しぶり、ナマエ」


 どこか気恥ずかしそうに小さく笑って彼は言う。声も少しだけ大人に近づいたらしく、少年らしい少しだけ高い声から落ち着いた声に変っていた。ふらりと立ち上がって手を伸ばせばその手は空を切ることなく、しっかりと彼の元へとたどり着く。夢じゃない。幻覚でもない。本物のレッドが、そこにはいた。


「……っ」


 触れられると分かった瞬間、私の中で溜まっていた感情が一気にあふれ出した。言葉を出そうにも言いたいことがありすぎて口から零れるのは嗚咽だけ。ぼろぼろと泣きだした私に一瞬レッドはぎょっとして慌て始める。


「どんだけ、待ったと思ってるの、馬鹿レッド…っ」
「…ごめん」


 謝罪と共にゆっくりと伸ばされた手はしっかりと私の背に回される。尚も止まらない涙を優しく拭いながら、レッドは小さく苦笑を浮かべた。細められる赤い瞳、伝わってくる体温に、本当に彼が帰ってきてくれたのだと実感する。
 強引に袖で涙を拭い、真っ直ぐに赤い瞳を見て、私は今出来る限りの精一杯の笑みを浮かべて言った。


「おかえり、レッド」
「ただいま、ナマエ」




頂点に座す少年


151118 執筆

投票、ありがとうございました
[目次へ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -