hit記念企画 | ナノ
 いつから始まったのだろう。目の前で行われる精密な作業を見つめながら私はふと思考を飛ばしてみた。
 私が初めて選んだ初期刀、加州清光はとても身なりに気を遣う刀だった。
 爪先から頭まで、全てがしっかりとしていなくてはならない。そして、それを踏まえて自分が綺麗ではなくてはならない。そんな思考を持つ私の初期刀は毎日の手入れは勿論のこと、飾り付けも欠かさない。
 女の私よりもきれいな髪や爪。すべすべの肌。お前は本当に男なのかと問いただしたいくらいに、綺麗で可愛い、という言葉が似合う彼はいつも私にその姿を見せては問うてきた。


「ねぇ、主。俺、可愛い?」
「うん、可愛いよ」
「主は俺の事、好き?」
「うん、好きだよ」


 まるで子供のやり取りのようなそれは毎日毎日飽きることなく繰り返される。言う本人は至って真面目に問いかけていて、それに応える私もいたって真面目に答えている。
 数個のやり取りが終わった後、満面の笑みを浮かべた彼は満足げに私の部屋を去っていく。それは、己に課された仕事をこなすためだ。
 他の審神者からはその問いかけに答えるのが面倒だという声も上がっているらしいが、別に真面目に答えてやればいいだけの話で、数分間の時間がつぶれるだけなのだから、それほどでもないだろうと私はいつも首をかしげている。

 そんなある日の事。いつものようにやってきた加州清光がじっと私の手を見て呟いた。


「主、主は爪に何か塗らないの?」
「ん?あー…ネイルとかのこと?塗りたいんだけど私不器用だからそういうの出来ないんだよ」


 女子なのに情けないねー、と苦笑交じりに答えた私をじっと見つめ、徐にその手を取った加州清光は満面の笑みでこういった。


「なら、俺が主の爪塗ってあげるよ」


 突然の申し出に勿論私は驚いた。けど、どこかウキウキとした様子の彼の提案を跳ねのけるのも忍びない。
 別に減るものでもないしいいだろう、そんな安易な考えで私は彼の申し出を受け入れた。


「主、まだ乾いてないから弄っちゃダメだよ」
「うん、わかった」


 己の爪を彩る色を眺めながら、横で片づけをする加州清光を見る。彼はあの申し出以来こうやって数日おきに私の爪を彩ってくれている。ある時は青、ある時は緑、ある時は黄色。
 けど、一番多いのは彼の爪を彩る色と同じ、赤色。
 私の爪を染める鮮血のような赤色を、彼はいつもうっとりとした瞳で見つめる。そして言うのだ「主には赤色が一番よく似合う、俺とお揃いだね」と。
 まるで恋人が同じ香水をつけるように。同じものをぶら下げてお互いの絆を確かめるように。彼は頬を染めて嬉しげに笑う。


「ねえ、清光」
「なに?主」
「最近ずっと赤だけど、他の色は切れちゃったの?」


 確かによく目立つ赤色もいいが偶には寒色系も付けてみたい。そんな軽い気持ちで問いかければ、私に向けていた背がぴくりと震える。


「……うん、ちょっと今切らしてるんだ」
「そっか…それなら仕方ないね」


 ならば注文をする準備をしておいた方がいいだろうか。何気なく天井に手を伸ばして、5本の指を彩る赤を見る。


「主は、赤色が嫌いなの?」
「ううん、そんなことはないよ」
「それならさ、このままでいいよね」


 何時の間に傍に来ていたのか、予想以上に近くで聞こえた声に隣を見れば横に座った加州清光が私を見つめていた。


「この色のままでいいでしょ?」


 天井へと伸ばしていた手をそっと握り、彼は私の手を包む様に両手を添える。どこか愛おしそうに彼は私の爪を彩る色を見てから、ルビーのように赤い瞳に私を映す。


「ずっと、俺の色に染まっていてよ、主」


 やんわりと瞳が弧を描いて赤色が歪み、その奥に微かな欲望の灯が見えた気がした。




綺麗好きな打刀


151105 執筆

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