企画作品部屋 | ナノ
ふわりと甘い香りが部屋の中に広がる。それにつられて短刀達が扉の奥から顔を出して、きらきらと瞳を輝かしてこちらを見ているのに気が付いて小さく笑いがこぼれた。


「どうしたんだい?主」
「いや、扉の向こうが随分と賑やかになってきたと思ってね」


隣で一緒に菓子作りをしている光忠に言えば、彼も視線を入口へと向けてから小さく笑みを浮かべた。


「それじゃぁ、外にいる刀が多くならないうちに終わらせないといけないね」


とろりととろみのある茶色い液体を用意した型の中に注ぎながら、光忠はどこか楽し気に私へと笑いかけた。




△ ▼ △





「それじゃ、短刀から順番に渡していくから並んでー」
「「「「はーい!!」」」


うん、いい返事だと満足げに頷きながらうずうずとしている短刀達から順番にラッピングしたチョコレートを配っていく。受け取った刀達はじっと袋を見たり、チョコの香りをかいだり、実際に食べたりしてそれぞれの感想を言い合っている。刀という存在だった彼らにとって、甘い菓子類を食べるのはもちろん初めての事で、その分驚きや感動が大きいのだろう。各々がいい反応をしてくれているのを見て、作った私の顔にも笑顔が浮かんだ。


「ねえ、主は食べないの?」


軽く袖を引かれたほうを見てみれば、そこにいたのは一本の刀。その体格に不釣り合いなほど長い刀を扱う大太刀の一人、蛍丸が私を見ていた。


「私は作るとき何度か味見をしたから平気だよ」
「そうなんだ」


私の返事を聞いてもなお、隣にいるつもりらしい蛍丸は袋からチョコを一つ取り出して口に含む。口の中でチョコが溶けていく感触を楽しんでいるらしく、小さな頬がまるでエサをほおばる子リスのように膨らんだ。いつもは帽子で隠れているきれいな銀の髪を櫛ですくように撫でれば、嬉しそうにすり寄ってくるその姿は本物の小動物のように見えて自然と口元が緩む。


「ちょっと蛍丸!なに抜け駆けして主の傍にいんの!!」


ほんわかとした空気を突如壊したのは加州清光の声だった。見れば、チョコは食べ終わったらしく空の袋が彼の手には握られている。


「別にいいでしょ?主の傍で食べたかったからここにいただけだし。主の傍で食べたら、おいしいちょこがもっとおいしく感じられるんだもん」


まるで当然のように腕を絡ませて私の片腕にくっついた蛍丸は、加州へとべっと舌を出した。それに彼が怒らないわけがない。足早に近づいてきたかと思えば、反対の腕にくっついて蛍丸へと睨みをきかせ始めた。


「それはわかるけど、ちょっと主の事独占しすぎ!少しは俺たちにも譲ってよ」
「やだ。こういうのは早い者勝ちでしょ?」


あぁ、わかっちゃうんだ、とずれたことを考えている間にも、私の両脇では子供がするような言い合いが繰り広げられる。助けを求めるように周りを見てみるが、これがここの本丸の日常風景でもあるので、他の刀達はどこか微笑まし気に私達を見ている。とりあえず、笑いをこらえている鶴丸だけは、明日の朝食を少なくしてもらえるように光忠にお願いしよう。


「相変わらず大人気だね、主」
「素直に喜んでいいかは疑問だけどね」
「喜んでいいと思うよ、僕たちもその子たちも、みんな主の事が大好きだからね」


くすくすと笑いながら、うちの本丸のおかんである光忠にそう言われる。まぁ、別に悪い気はしないのでいいか、なんて事を考えながら甘い香りが広がる部屋の中に響く声を聴きながら私は両脇の刀の頭を優しく撫でた。




我が本丸では日常の風景


170404 執筆


つぐみ様、リクエストありがとうございました
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