企画作品部屋 | ナノ
がやがやと賑やかな境内。そんな様子を見ながら入口の鳥居に寄りかかっている僕の頬を冷えた風が一撫でし、思わずぶるりと身震いを一つした。少しだけ下がってしまったマフラーを口元まで引き寄せて、その温かさを堪能していると「佳主馬君」と聞くのが久しぶりな声が耳に届いた。
視線を声のした方へと向ければ、そこには自分と同じように暖かそうな格好をしたナマエがいた。


「ごめんね、待った?」
「ううん、そこまでは」
「そっか、ならよかった。じゃぁ行こうか」


少しだけ鼻先が赤くなったナマエは、ほっと安心したように息を吐きだして僕の隣に並ぶ。彼女の言葉に促されるままに歩きだして、二人で向かうのは本殿。
新年のお参りに一緒に行かないか、と言いだしたのはナマエだった。
新年というめでたい時だというのに、いつものようにOZで対戦をしていた僕の元に届いた一通の手紙。表示された見慣れた名前に、また対戦の申し込みかと思いながら開けば、中に納まっていた内容は対戦ではなくお出かけの誘いだった。断ることもできたけれど、指定されていた日時は丁度ま空いていたので、構わないだろうと肯定の返事を送って、僕は今彼女とここにいる。
三が日は過ぎているので前に進めないほどに混んでいるというわけではないけれど、それなりの人数が境内の中を歩いている。はぐれないように隣にいるナマエの姿を何度か確認しつつ歩いていると、いつの間にか参拝をする本殿の前についていた。


「佳主馬君はどんな御願い事をしたの?」


参拝を終え、配られていた甘酒を椅子に二人して座って飲んでいると、ナマエはそんな疑問を零した。僕は紙コップに付けていた口を一度放して、ぼそりと一言。


「今年もOZで勝ち続けられますように」
「あはは、佳主馬君らしいね」


僕の答えにくすりと笑い彼女は一口甘酒を飲む。それを見ながら、今度は僕から彼女へと問いかける。


「ナマエはどんな願い事したの?」
「私?私は、もう少し勉学の成績が上がりますように」
「真面目だね」


しかし、彼女らしい返答だ、と思いつつまた甘酒を一口飲む。出会ったときから何かと成績の事を零していた彼女は、もうすぐ新しい学年へと進むらしい。そこも中々難しい勉強をするところなのだと以前来たメールで零していたので、今はそれに向けた勉強をしてるんだろう。


「あと少しのところが上がらないんだよ。それなりに勉強してるんだけど、応用とかがね」
「ナマエは応用苦手そうだもんね」
「そ、そんなことないって」



寒さで赤くなってしまった頬を膨らませながら反論してくるナマエの顔がおかしくて、ついつい笑みが零れる。中身がもう残り少なくなってしまった紙コップを手で弄びながら、「でも」と僕は言葉を続ける。


「ナマエなら、きっとできると思うよ」


あの出来事で沈んでしまった僕を此処まで引き上げてくれたのは彼女だ。ナマエと出会っていなかったら、僕はまだあの出来事を引きずったままだったろう、そしてなにより、関わっていくうちに彼女は弱音をはいても、決してそれで諦める人ではないと知った。だからきっと今回も乗り越えていくんだろう。


「ほ、本当?」
「うん。なんならキングのお墨付きって言葉も付ける」


その言葉を聞いた瞬間、どこかまだ不安を残していたナマエの瞳から不安の色が消えた。それほどまでに“キング”という存在が、彼女にとって心強い存在という事を知っている。だから、あえて僕は此処でキングを出した。これでもう安心だろう。


「ありがとう、佳主馬君。これ以上ない心強い言葉だよ、それ」
「それはよかった」


頑張るね、と明るい声で言うナマエに頷いて最後の甘酒を一気に飲みきる。そろそろ帰ろうかと提案すればナマエも同意してくれて、二人で帰路へと向かおうと立ち上がる。
その時、僕の羽織っている上着からカサリ、と紙の擦れる音が零れる。そういえば、と手を入れて中身を確認する。渡そうと思って買っていたのに、話で意識が逸れてしまって渡しそびれるところだった。


「ナマエ」
「ん?なに?佳主馬君」


僕より少し先を歩き始めていたナマエを呼びとめて、ポケットの中で握っていたそれを彼女の方へと差し出す。
ナマエは不思議そうにしながらそれを両手で受け取って中身を開いた。細い指に持たれて顔を出したのは学業向上と刺繍されたお守り。そして、そのお守りの裏には神社の名前と隅に兎の刺繍が小さく施されていた。参拝を終えてお守り売り場を見ている時に偶然見つけたそれ。きっと彼女に似合うだろうとこっそり買っておいたものだ。


「お守りって、自分で買うより他の人からもらった方が効果あるらしいから、あげる」
「…っ、あり、がとう、私、頑張るね」
「うん、応援してる」


少しだけ涙声になって俯いてしまった彼女の頭を優しく撫でる。ぽたり、ぽたりと地面に落ちる雫に気づかないふりをして、そのままそっと彼女の体を引き寄せれば何の抵抗もなくその体は僕へと寄りかかる。子供をあやすようにぽんぽんと頭を撫でながら、彼女に負けない様に僕も頑張らないと、と心の中で考えた。




キングとある少女の新年


161218 執筆


ナナシノゴンベエ様、リクエストありがとうございました
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