企画作品部屋 | ナノ
 狐狩り。そんな言葉が定着するほどに出現率が低く、未だに狐を探し続ける人も少くない小狐丸という刀は主に構ってもらうのが好きな刀と言われている。
サプライズじじいと言われて、驚かすことに全力を尽くしていると言っても過言ではない鶴丸国永や、放浪じじいと言われるくらいに様々な場所をふらふらしている三日月宗近のように特定の認識がされている刀だ。

 周りで「狐が来ない」と嘆く仲間の審神者の絶望をよそに、黄金レシピと言われるレシピを鶴丸と一緒に回して一度で出してしまった私の本丸には小狐丸がいる。すでに小狐丸を所持している審神者情報から「やたら構ってちゃん」「ぬしさまもふってって言葉を会うたびに言われる」「あの髪って耳なのか髪なのかすごく気になる」などの言葉をインプットしていた私は今、隣に座っているその狐を見て首をかしげていた。




△▼△




 彼が本丸に到着してから数日。新しい刀ということで他の刀と会話をし、狐同士の対面も済んだ。同じ三条の刀とも会話をして「久しいな」なんて嬉しげに笑っていた三日月宗近の顔はまだ記憶に新しい。
 一通りの挨拶が終わったので、早速強くしようと彼を私の近侍にしてからのこと。彼の行動に私は首を傾げる事になる。
 結論から言うと、噂に聞いた構ってちゃん行動がないのである。近侍としてたどたどしいながらも指示されたとおりに仕事をこなす小狐丸。名前の由来やら己がどのようにつくられたかなどの話はしてくる。けれど、情報交換で一番多く聞いた「ぬしさまもふって」という感じの行動や言動が一切ない。何故だ、と首をかしげて他の刀に相談しても相手からも首を傾げられる始末。本人に聞けばいいだろうという意見もあったが、先走って持っていた先入観を相手にばらすのも気が引ける。

 結果、聞くにも聞けず、構うにも構えずのじりじりとした煮え切らない状態が続いてきてしまっているのだ。


「ぬしさま、どうされました?」
「いや、なんでもないよ」


 いつの間にか止まってしまっていたらしい私の手。それを心配そうに見つめるのは小狐丸。彼の仕事はあらかた終わったらしく、大人しく私の仕事の終了を待っているらしい彼は、近侍用に用意されている座布団にちょこんと座っている。
 不安げな表情に笑顔で返して止めていた手を動かし始める。とりあえずこの仕事だけは今日中に終わらせなければならない。
 けれど、やはり私の頭を埋めていくのは仕事の事ではなく小狐丸の事。他の審神者は大型犬みたいで可愛いよー、なんて嬉しげに語っていたのに、私の刀はそうではない。きちんと節度をもった、まるで長谷部のような態度なのだ。

 本音を言ってしまえば、私も他の審神者の様に小狐丸をもふってみたい。ぬしさま〜と甘えてくる大きな体を撫でたりしたい。もふもふであろうその手入れが行き届いた髪を撫で繰り回したい。簡単に行ったら甘やかしたくてたまらないのだ。
 けれど、目の前の刀はそれを許してくれない。これは、まだ私が彼に自分の主として認められていないという事なのだろうか、そうだとしたら立ち直れない。


「ぬしさま、今日はもう切り上げられたらどうですか?」


 不意に暗くなった紙に顔を上げれば心配そうな表情の小狐丸がいた。そっと触れられた手元を見れば、また止まっていたらしい手と、止まった筆から垂れた墨で出来た大きな黒いシミ。あぁ、本当に今日の自分はダメらしい。


「気分がすぐれないようですし、早めにお休みになったほうがよろしいかと」
「…うん、そうだね。そうするよ」


 情けない、と大きなため息ひとつ。不安そうに見てくる小狐丸の表情が視界に入って、無意識のうちにその頭へと手を伸ばしていた。他の短刀達にするようにぽんぽんと撫でてやれば、どこか驚きながらもその手を受け入れる小狐丸。
 はっと我に返り拒絶されるかと思ったがそんな事はなかった。ただ、何かに耐えるようにぎゅっと手を強く握りしめながら撫でられる彼を見て自然と手を離す。


「ぬしさま?」
「ごめんね、急に。後は一人でできるから、小狐丸も休んでいいよ」


 安心させるように笑みを浮かべても、彼の表情が晴れることはなかった。私の言葉に頷きはするも、そこから動くことはなく。じっとその場に居続ける小狐丸。どうしたものかと思っていると、不意に閉じられていた彼の口が開いた。


「ぬしさま、一つだけ…私の我儘を聞いてくださいませんか?」
「…、いいよ」


 唐突だが初めての彼からの甘えに、ついつい肯定の言葉を出してしまう。私の横に座る小狐丸に向き合う様に座る位置を替え、真正面から向き合えばどこか言いずらそうながらも口は開かれる。


「その…もう一度、頭を…撫でていただきたいんです」


 ぽかん、と開かれたのは私の口だった。目の前の彼はどこかそわそわとした様子で不安げに此方を見てくる。まさか、お願いでそんな内容が飛び出てくるとは予想外だったので、暫く私の動きは停止した。が、再度私を呼ぶ小狐丸の声に意識が戻り、おそるおそるそのふわふわの髪へと手を伸ばした。
 手に伝わってくるもふもふとした髪の感触。予想していたよりももふもふとしたその感触に一種の感動を覚えながら撫で続ける。あまり撫でては嫌ではないかと、顔を見てみれば少し俯きがちながらも仄かに頬を赤らめた小狐丸の顔があった。ふるふると小さく震える大きな体、それが恐怖などの感情から来ていることではないことだけはわかる。


「も、もういい?」
「はい、ありがとうございます」


 では、とそそくさと部屋からいなくなっていく姿を見つつ、ふと思う。彼は、私を主と認めていないわけではなくて、ただ構ってもらったり甘えるのが苦手なだけではないのかと。

 後日、同じ三条の三日月宗近に相談を持ちかけてみると、彼はほけほけと笑いながらこういった。


「小狐は昔から、自分から構ってもらったり甘えに行くのが苦手だったんだが…それは今も変わらないようだな」




大きな狐の小さな気持ち


151212 執筆

リクエスト、ありがとうございました
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