企画作品部屋 | ナノ
 同じ夢を見ている…。そう気が付いたのはつい最近の事だ。しかも、夢の内容はいつも同じ。
 自室で眠っている私の傍に薬研が来て、そっと口づけていくというものだ。
 我ながらなんという夢を見ているのだと頭を抱えたくなる内容だが、見てしまうものは仕方がない。かといって、私も嫌ではないしむしろ嬉しいとさえ思ってしまうのだから何も言うことができない。夢は己の願望をうつすと聞いたことがあるが、流石にこれはダイレクトに表現しすぎではないかと文句を言いたくなる。いや、言うとしても己自身に言うことになるのだが…。


「どうしたもんか…」


 はあ、とため息をつきながら廊下を歩く。最近は夢のせいで薬研との関係が変にこじれてきてしまっているのだ。原因は勿論私にある。会話をしたり、ふとしたふれあいの時に夢の映像が脳内にフラッシュバックして恥ずかしさのあまり変な行動をとってしまう。
 いい加減何とかしなければいけないのだが、いかんせんその突破口が見当たらない。そう考えると再度私の口からはため息が零れた。


「お、大将じゃねえか。どうしたんだ?」
「薬研」


 丁度曲がり角でばったりと出会ったのは悩みの種となっている人物だった。私よりも少しだけ背が小さく、見た目は少年なのに中はやたら大人びている薬研藤四郎。
 私服の端に泥がついているところから、おそらく先程まで頼んでいた畑仕事をしていたのだろう。


「別に、何か用事ってわけじゃないんだけど、少し息抜きに散歩でも、ってね」
「そうかい。丁度俺っちも暇になったところだから、一緒について行ってもいいか?」
「退屈かもしれないけどそれでいいならいいよ」
「大将と一緒にいて、退屈になることなんてないさ」


 くつくつと笑いながら隣へとやってくる薬研。一気に近づいた距離感に思わず私は後ずさってしまった。それを見た薬研は僅かに瞳を細める。
 やってしまった…。出来る限りあからさまな事はしない様にと気を付けていたのに…。


「なぁ、大将。ちょっと前から思ってたんだけどさ、俺っちの事避けてないか?」
「そ、そんなことないよ」


 ははは、と誤魔化す様に笑おうとするが上手く笑うことができない。視線も不自然に動き、これでは逆にそうなのだと肯定しているかのようだ。薬研はそんな私を見て小さく息を吐く。


「大将、そういうことされたら逆に気になっちまうんだよ。だから、俺っちの事で気に入らないことや嫌な事があるならはっきり言ってくれ。直せるように努力するからさ」
「薬研…」
「何も言われずにそうやってさけられたりするほうが、俺っちにはすごくこたえちまうんだ。だから、頼むよ大将」


 どこか寂しげに私を見つめ、そっと触れられた手を振り払うことはできなかった。私の手を包む様にして握り、真正面から見つめる薬研。ここまで言われては隠し通すことはできない。小さく息をはいて、私はゆっくりと薬研を見つめ返す。


「わかったよ、薬研。でも、少しここだと話しずらい内容だから、続きは私の部屋でいい?」
「あぁ、構わねえよ」


 そういう薬研はどこか安心したような表情だった。
 彼としては自分が使える主に避けられるというのはとても辛いことなのだろう。それは私にもよくわかる、だからこそ、それを分かっているのに避けてしまう自分がとても情けない。
 自室に戻り、座布団を敷く。薬研がそれの上に座るのを確認して、私も向き合う様に座布団を敷いて座った。さて、どう切り出したものか。突然、夢を見たのだと言って話すのは流石に薬研も困るだろう。
 うんうんと私が考えていると、薬研はゆっくりと口を開いた。


「正直な話、大将は俺の事が嫌いか?」
「そ、そんなことないよ」
「なら、なんで避けるんだ?」
「それは…、…あの、言っても引かない?」
「引かないさ。だから正直に話してくれ」


 ここまで真剣にいわれてはもう逃げられない。私は正直に夢の事と、夢の内容を薬研に話した。彼は、途中で口を挟んでくることなく、ただ静かに私の話を聞き、そして終わると同時に小さく呟いた。


「あのさ、大将。俺っち、最近あるおまじないをしてるんだ」
「おまじない?」


 突然の話題に思わず首を傾げた。


「好きな相手に、自分の事を好きになってもらうおまじない。前に本で読んだんだ」


 それはまたストレートな内容の本もあるものだ。おそらく内容的に、私が偶に現世から持ち込んでいる本の特集でも見たのだろう。
 そうかと頷き、ふと思う。そのおまじないと私の夢、どこかつながるところでもあるのだろうか。目の前の薬研はそんな私を見つめてどことなく楽しげな表情を浮かべながら話を続けた。


「その内容というのが、寝ている相手に覆いかぶさって…」


 話すと同時に軽い力で後ろへと押される。抵抗する暇もなく倒れた私の上には、言葉通りに覆いかぶさってくる薬研の姿。押し倒され覆い被さられている。そう自覚した瞬間私の顔に熱が集まった。くすくすと上から降ってくる笑い声。目の前には楽しそうな薬研の顔。あぁ、きっと分かっていてやっているのだろう。寝ている私、それに覆い被さる薬研。先ほど話した夢の話。ここまでくればもうこの後の展開も予想はつく。


「耳元で、相手に対する思いを言いながら…」


ふわりと香る彼の匂い。爽やかで、どこか薬草の混じった香り。


「や、げん…」
「愛してる、大将」


 色を含んだ艶のある声が鼓膜をゆらし、綺麗な紫色が近づく。観念したように瞳を閉じれば、噛みつく様なキスが降ってきた。




おまじない


150418 執筆


蓮様、リクエストありがとうございました

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