「主はちょっと蛍丸くんに甘え過ぎているところがあると思うんだ」
遠征のメンバーについて話をした際、どこか言いずらそうに光忠は言った。理由が分からずに思わず首を傾げれば、小さなため息が彼の口から洩れる。
「最近、何をするにも彼を連れているだろう?」
「そりゃ、私の近侍だし…」
「近侍だとしても、少しくっつきすぎな様に見受けられるよ。蛍丸くんにも蛍丸くんの時間ややりたいことだってあるだろうし…少しそこは考えてあげてほしいんだ」
真剣な表情できっぱりと言われてしまっては言いかえす術が見つからない。考えてみるというあいまいな返事しか返せなかったが、それでも光忠には満足が得られる返事だったらしい。彼の顔からは真剣な表情が消え、いつもの優しげな表情が戻って来た。
* * * * *
暖かな昼の日差しが降り注ぐ縁側。そこに座る蛍丸を抱きしめるような形で私は座っていた。
「っていう話を今朝光忠としてたんだけど、蛍丸はどう思う?」
ふわふわな髪に顔を擦り付け、彼の意見を聞く。
話した内容は今朝の事だ。私が蛍丸に甘え過ぎているという話。そして、それを直した方がいいという話。確かに私は彼ら刀剣男子をまとめる審神者だ。一人に依存しすぎて仕事に支障を出してしまうのはいただけないことである。最初に政府と交わした約束の中にもそれに似た内容があった。
議題の中心、そして質問を投げかけられた当人である蛍丸は、うーん、と考えるような声を出した後、小さく身動ぎをして体を斜めにし私へと顔を向けた。
「別に俺はそこまで気にする必要ないと思うよ」
「そう?」
「うん。主と一緒にいられることや、こうやってくっつくことを別に迷惑だとか嫌だとか、俺は思ってないし」
だから無理に直そうだとか、変えようだとか考えなくてもいい。静かに言葉を紡ぎ、蛍丸は私にすり寄る。
「それに俺、嫌だったらちゃんと嫌だって言うよ」
「そういえばそうだね」
思い返せば彼はしっかりと自分の意思は発言していた。これは嫌だとか、それは苦手だとか。きっちりと自分の意思を言ったうえで私の傍にいてくれている。だからこそ、私は蛍丸の傍が一番心地よく、安らぐ場所だと思うのだろう。
私を自分の主だからとすべてを肯定するわけでもなく、変に気を使うわけでもない。主としての私をたてながらも、自分の意思もしっかりと持ってそれを出してくれる。
「周りは色々言うかもしれないけどさ、主はそのままでいいと思うよ」
ね、と最後に可愛らしい声と笑顔で言われてしまえば、直さねばという考えや光忠の言葉などどこかに飛んで行ってしまった。私は本当に蛍丸のこの声と顔に弱い。
可愛い可愛いと呟きながら抱きしめ、頬をすり寄せれば「へへ」と嬉しそうな声を出してくれるもんだからたまらない。
「あーもうほんと蛍丸大好き」
「俺も大好きだよ、主」
そう言った蛍丸が、陰からやり取りを見ていた光忠に対して、翡翠色の瞳を楽しげに細めて不敵な笑みを浮かべたなんて私が気付くはずもない。
結局は何も変わらないというだけの話150414 執筆
紗雪様、リクエストありがとうございました
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