企画作品部屋 | ナノ
ひゅるりと冷たい風が頬を撫でる。その冷たさに一瞬体を震わせて、薄い白布で覆われた自分の腕をこすった。
三が日を過ぎた神社は人もまばらでとても静かだ。それでも参拝に来る人はいるので、そんな人たちが気持ちよくお参りできるように私は竹箒で参道の砂利などをはいている。


「おい」
「ん?あ、爆豪君」


せかせかと箒を動かしている背中にかかった低い声。振り返れば、そこにいたのは暖かそうな恰好をした同級生だった。


「お前、何しとんだ」
「なにって、参道の掃除だけど」
「その恰好寒くないんか?」
「逆に聞くけど、寒くないように見えますか?」


ひらひらと袖を振って布の薄さをアピールすれば、爆豪君は「くそ寒そうだな。お前馬鹿かよ」と辛口のコメントをくれた。彼の言うことは最もだけれど、御祈祷の時などに備えてこの恰好でいなくてはいけないので仕方がない。


「中にいればいいだろ」
「参道に砂利があったから気になってね。やっぱり綺麗な道を通って参拝してほしいからさ」


小さな神社ではあるけれど、自分の家でもあるので綺麗にしておきたい。何より、せっかく来てくれる人が、汚い神社だと思って新年から気を悪くするのもなんだか心苦しい。
私の言葉を聞いた爆豪君は「ふん」と鼻で笑い、そのままずかずかと参道を歩いていく。


「もしかして参拝に来てくれたの?」
「あ?それ以外にここに来る理由があんのか?」
「私に会いに来たとか」
「死んでもあり得ねえ」


苦虫を噛み潰したような表情でそう言い捨てた爆豪君は、振り返ることなく本殿の鈴へと向かっていく。そこまで言わなくていいのになぁ、とぼんやり考えながら、私もまた箒を動かした。


「よし、こんなもんかな」


満足のいくところまで参道の掃き掃除を終わらせて竹箒をしまう。さて、と自分の持ち場に戻ろうと踵を返した先に、じっとこちらを見る爆豪君の姿があった。


「あれ?まだ帰ってなかったの?」
「まぁな」


片手に持った紙コップの中身をちびりと飲み、爆豪君はその赤い瞳に私を映した。おそらく紙コップの中身は神社でふるまっている甘酒だろう。冷たい風で冷えてしまった体を、ふんわりと内側から温めてくれる自分の神社の甘酒は私のお気に入りだ。


「やる」


不意に振られた手から飛んだものを慌てて受け止めれば、手の中にすっぽりと納まったのは金色の糸で「御守」と刺繍された淡い桃色の御守だった。


「爆豪君、これ…」


見間違いでなければこれは私の神社で売っているお守りだ。


「御守は、自分で買うより他人からもらった方がいいってどっかで聞いた」


お前は何かと危なっかしいから、と小さく付け足して彼の瞳のように赤いマフラーを爆豪君は口元まで引き上げた。つまり、話を整理すると、彼は何かと怪我やらなんやらをする私のためにこのお守りを買って渡してくれたということらしい。
クソを下水で煮込んだような性格とクラスメイトに比喩される彼らしくもない、他人思いな行動。なんだかそれがとてもむずがゆくて、自然と口元が緩んでしまう。


「爆豪君」
「あ?」
「ちょっと此処で待ってて」


その言葉への返事は待たずに、私は御守売り場へと走った。裏口から中に入り、バイトの巫女さんに訳を話して一つの御守を手に取り紙袋へと丁寧に入れる。それを一度抱きしめて、これが彼を守ってくれるようにと強く強く思いを込めた。

カランコロン、と下駄の音を鳴らして先ほど爆豪君と話をしていた場所へと行けば、木に寄りかかりぼんやりと空を見る彼がいた。
その姿すらまるで一枚の絵のようで、ほんとイケメンはどこにいてもどんな格好でも絵になるな、と小さく笑みがこぼれる。


「爆豪君」
「なんだよ」


下駄の音で私へと視線を向けた爆豪君に近寄って、両手で大事に持っていた紙袋を渡す。「開けてみて」と促して、爆豪君の手で紙袋から取り出されたのは「健康守り」と刺繍された淡い青色の御守。


「さっきの御守の御礼。ヒーローは健康第一だからね」
「それはお前にもいえるだろ」
「あ、確かにそうか」


くすくすと笑う私を見て、どこか呆れたようにため息をつく爆豪君は、どうやらこの神社での用事はすべて終わったようで紙コップをぐしゃりと潰してゴミ箱へと投げた。それは弧を描いて綺麗にゴミ箱へと入っていく。
その一連の流れを、流石だなぁ、と感心しながら見ている間にも、爆豪君はすたすたと帰路へと歩みを進めていた。


「爆豪君!」


名を呼べば、進んでいた彼の歩みは止まり、爆豪君は私を見る。


「御守ありがとう!また学校で会おうね!」


くれたお守りが見えるように持つ方の手を高く上げて言えば、爆豪君は返事をくれることはなかったけれど、軽く手を振って帰っていった。


190119 執筆

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