企画作品部屋 | ナノ
ふぅ、と息を吐けば白くなって空気に解ける。首に巻いたマフラーを口元に引き寄せて温もりを堪能していると、パタパタと走る音と「ナマエ!」と私の名前が呼ばれた。
彼なりに時間よりも早くと思っていたらしいけれど、残念ながら私はその上を行く人間だ。好きな異性とのお出かけを前に時間通りに来るなんて真似はしない。むしろ早く来て身なりと心を整え、彼が来るのを今か今かと心を躍らせながら待つのだ。
「普通は、時間より少し遅く来て、ごめん待った?みたいな流れでしょ」と親友からは指摘されたけれど、そういう思考はないと言いきれば諦めたようにため息をつかれた。


「出久、早かったね」


時間を確認すれば、まだ約束の時間ではない。他人を気遣う彼らしい行動だ。


「ナマエの方が早いよ」


私の前まで走ってきて困ったように出久は笑った。「他人に遅れを取るのが嫌いなんだ」と言えば、私らしいと出久はまた笑みを零す。


「それで、今日はどこに行くの?」
「近くのショッピングモール。大きなイルミネーションツリーがあるらしいの」


だからこそ集合場所もその近くにしたのだ。ここからならば、のんびりと歩いて向かう事ができる。
立ち話するのもなんだし、何より次第に風で体が冷えてきたので、歩こうかと彼を誘う。自然と私の横に並んだ出久の手袋に包まれた手に自分の手を絡めれば、彼は驚いたように私を見た。


「ナマエ、あ、あの、これって」
「たまにはいいでしょ?」


一応彼氏彼女という関係性を持っている私達。それでも、彼の恥ずかしがり屋の性格のせいか、あまり表向きこういう行為はしない。けれど、それも今日くらいはいいではないか。
恋人たちの日と呼ばれるこの日くらい、周りの恋人たちがやっているようなことをしても責められはしないだろう。
まぁ、クラスメイトに目撃されようものなら、その場でどういうことかと問い詰められるか、寮に返ったときに詰め寄られるかもしれないけれど。それを怖がっていてはいつまでも先には進めない。
顔を真っ赤にしながら私とつながれた手を交互に見ていた出久も、少しすればおずおずと握り返してくれた。その反応が嬉しくて、自然と私の口元は緩む。


「出久は、何か欲しいプレゼントとかある?」
「うーん…聞かれてすぐには思いつかないや。ナマエは?」
「私はねー、成績かな」
「それは…ちょっと難しい願いだね」


絡めた手をそのままに、道行く人たちの波に乗りながら、ゆっくりとしたペースで歩みを進めていく。私の願いを聞いた出久は、相澤先生にお願いしたらいけるかも?と真剣に隣で悩んでいた。
確かに、担任の先生に頼めば叶うかもしれないけれど、合理的ではないとバッサリ切り捨てられるのが落ちだろう。わかっているのに真剣に考え込んでしまう出久はとても可愛らしい。
隣から聞こえてくるぶつぶつという声をBGMにしながら、次第に見えてきたイルミネーションツリーへと視線を向けた。その下にはやっぱり沢山のカップルが集まっていて、プレゼントを渡していたり、幸せそうに寄り添っていたりしている。
これが世間的に普通のカップルだとしたら、私達のように距離をもった付き合いをしているカップルは少し珍しいのかもしれない。


「出久、ついたよ」
「へ?!あ、ほんとだ」


意識を思考の海に沈めていた出久を起こすように、軽く腕をつつけば、はっと出久は我に返った。そして自分がいつもの癖を起こしたと自覚した彼は謝ってきたけれど、別に気にしないと返事を返す。
恋人として彼の隣に立ちたいと思った時から、この癖もすべて受け入れると決めていたのだ。むしろ、最近ではその姿が愛らしい姿に見えてきているのでもう色々と重症になっているのかもしれない。
けれど、仕方のないことだろう。それくらい、私は彼がどうしようもなく好きなんだ。
赤、青、緑、黄色、銀色。様々な色に彩られた大きなツリー。大小の飾り付けがそれを包み、幻想的な風景をかもし出している。
ほう、とその光景に出久は息を吐きだした。その大きな目にはきらきらとしたイルミネーションの光が映りこむ。


「すごいね…」
「そうだね」


二人でツリーの下に行くと、イルミネーションの輝きで光に包まれている感覚になる。夜の暗闇を彩る様々な光の色。その中に今、私と出久はいるのだ。


「ねぇ、出久」
「なに?」


尚もツリーを見上げながら、私は少しだけつないだ手に力を入れる。それに対して、返すように出久も握る力を強めてくれた。


「また、来年も一緒にこれを見ようね」


きっと来年になれば私達は二年生になっているだろう。色々な事件などに巻き込まれ手注目された一年生、そんな私達が二年生になったとき、どんな雄英生徒になっているのか。今はまだ想像もできないけれど、今からしっかりとわかっていることはあった。
二年生になっても、きっと私は出久の事を好きでいつづけている。
それは、今から胸を張って言えることであり、確実だといえる事。出久の方はどうなってしまうかわからないけれど、少なくとも私の気持ちは揺らぐことはないだろう。


「うん、また一緒に見よう」


ツリーへと向けられていた緑の瞳で私を映し、出久はいつものように柔らかく笑った。


181201 執筆

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