複数ジャンル短編 | ナノ
私の世界はとても狭かった。獣に変化する個性を生まれてもった私は、家族のように個性発動時意識を保ち続けることができず、敵味方関係なく攻撃をしてしまう。
それが個性の訓練時に発覚してから、私はこの檻にも近い部屋に入れられ育った。
けど、そんな私へ雄英から手紙が来たのだ。どうやら、両親は雄英に私の事を相談していたらしく、それならば、と雄英が案を出してくれたらしい。

連れてこられたのは「ウソの(U)災害や(S)事故ルーム(J)」。スペースヒーロー、13号が管理するここならば、多少暴れたとしても問題はないし、時折訓練に来る生徒の手伝いをしてくれればいいという。そして、教師の中には人の個性を消す個性をもった先生もいて、何かあればその先生が対応してくれるそうだ。

親に手を引かれ手初めて出た外の世界。ずっと見てきた鉄格子なんてない、広い世界に私の心は踊った。




△ ▼ △





あれから数年。此処での生活も慣れてきた頃、知っている声と匂いがすると思ったら、突然知らない匂いが大量に鼻に届いた。
自然と私の口から洩れるのは唸り声。多少の知らない匂いならば生徒だと納得できるが、これはいかんせん数が多すぎる。
その不愉快さに飛び出すと、やはり見慣れぬ大勢の人間の姿。ほとんどが殺気を出して見てくるので、これは敵だと即座に判断した。
味方ならば手加減などしなくてはいけないが、敵ならばそこを気にする必要はない。変化しなれた獣の姿になって、手始めに近くの敵を尻尾と爪を使って弾き飛ばした。
どれくらいの間暴れまわっていたんだろう。最初は保っていた人間の意識もほとんどなくなり、ただ動くものへ襲い掛かるほどの意識しかなくなってきたころ。


「ナマエ」


とても聞きなれた、心地よい低い声が私の耳に届いた。進めていた歩みを止めて、下を見れば黒い服装に身を包んだ男性が一人。まっすぐに私を見上げていた。


「敵は皆気絶した。もういい…」


私へと差し出された手にすり寄り、心地よい感触に「グルルル」と自然と喉が鳴る。広げていた翼を閉じて、ゆるりと瞳を細めれば目の前の男性は表情を和らげた。その瞳が次第に赤く光ると、ゆっくり、ゆっくり、私の体が縮んでいくのを感じる。


「ナマエ」


先ほどよりも近く聞こえた心地よい声。ゆっくりと瞳を開けば、先ほどの男性が――相澤先生が立っていた。


「相澤先生…」
「怪我はないか?」
「はい、大丈夫です」


久しぶりに戻った人の姿。大抵は獣の姿でいる為、服なんてものは身に着けない。なので今の私は裸だ。
後ろの方で先生の生徒らしき人が顔を真っ赤にしたり、手で目を隠したり、女子にはたかれたりしているのを見ていると、ふわりと暖かな布に体が包まれる。


「そのままでは風邪をひく、これ着てろ」


久しぶりに感じる鱗以外の感触を楽しんでいると、暖かな手が頭を撫でる。もう獣ではないので喉を鳴らすことはできないけれど、いつもの癖でやろうとしてしまった。それを見た相澤先生は優しく瞳を細める。
相澤先生が個性を消してくれる時だけになれる人の姿。消された後は、私が獣になろうとしない限りは人の姿でいることができるけれど、まだ個性を完全に制御できていない私はふとした感情の揺れで獣に戻ってしまう。
本当は、ずっと人の姿でいたいし、この施設の外も出てみたい。普通の子達が通っている学校というところにも行ってみたいけれど、私はそれができない。そんな私の意図をくんで相澤先生は偶に同伴で外へ連れ出してくれる。教師という仕事柄頻繁にというわけにはいかないが、先生は時間ができたら私を外へと誘ってくれる。
周りからは小汚いなどと言われているけれど、誰よりも他人思いな優しい先生だと私は思っている。
わしわしと撫でられる手の心地よさに瞳を細めてすり寄ると、心なしか相澤先生の雰囲気も柔らかくなった。


「相澤先生、そろそろ」
「あぁ、わかった。じゃぁナマエ、俺たちは今から警察に事情説明とかしなくちゃいけないから」
「わかりました。じゃぁ私は寝床に戻ります」
「そうしてくれ。あ、もし何か怪我とかしていたらすぐに知らせるんだぞ?リカバリーガールを呼ぶから」
「はい」


13号先生に「すぐに行く」と言って、最後にもう一度私の頭を撫でた相澤先生は、生徒たちの集まっている方へと歩いていった。
私はその方向と反対の方へと歩きだす。もらった布はまた次に会ったときに渡せばいいだろうし、あまり沢山の人がいるところは苦手なのだ。ゆっくりと布を取り、瞳を閉じる。ゴキッという骨のきしむ音と自分の体が変わっていく感覚が治まるのを待って、再度開けばそこには先ほどよりも高い世界が目に入ってくる。


「ウォオオオン!」


慣れ親しんだ姿で一度吠えれば、それは施設内に響き渡る。そのまま私は自分の寝床へと走り出した。




彼女は獣
190326 執筆


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