複数ジャンル短編 | ナノ
様々な声が飛び交う体育館。その壁際に用意されたパイプ椅子に座り、私は小さいながらもピョンピョン飛ぶ片割れの姿をのんびりと眺めていた。
ふと時計を見ればもう普通の生徒ならば帰っている時間。なのになぜ私は此処にいるんだろう。ただ片割れの忘れ物を届けに来ただけだというのに、あれよあれよと体育館の中に引っ張り込まれ、椅子を用意されて部活動を見る羽目になってしまった。
これでは今日の夕方から始まるアニメは見れないと考えて、母へと録画のお願いメールを送るために手元へと視線を落としているときだった。


「危ない!!」
「え?」


一際大きな声が体育館に響いた。何事かと顔を上げると、視界に入ったのは勢いよく私へと飛んでくるボール。
それを認識して、どうするかと思考が動くよりも早く、体の方が勝手に動いていた。
顔に迫っていたボールをそのまま横にはたくように殴りつける。バゴッ、と鈍い音を立ててボールはまた別方向へと飛んでいった。


「ふぎゃっ!!」
「ふぎゃ?」


ボールが飛んでいった方向から上がった謎の声。随分と片割れの翔陽に似た声だと視界を向けると、そこには股間を押さえて悶える翔陽と彼の足元に転がるボール。そして、腹をかかえて爆笑する部活の人たちの姿があった。


「ぶあっはっはっはっは!!日向!今の!股間に直撃!!腹いてぇ!!」
「ぶふっ!股間直撃」
「うわ〜…痛そう」
「ちゃんと避けろ日向ボケェ!!」


爆笑する田中先輩、口元を隠して笑う月島君、顔を青くさせて己の股間を思わず手で隠す山口君、そして、何故か怒声を浴びせる影山君。
他の先輩方は「日向大丈夫か!」「なんか冷やすもの!」「お前ら笑ってばっかいないで日向運べ!」など手当てへと思考を切り替えているようだ。
どうもその騒がしさに乗れない私は、思わず無言でその光景を見つめてしまう。
股間を押さえたまま体を縮こませた翔陽はなぜか私の隣に運ばれてきた。どうやら私がいたところが、一番流れ弾が来ない場所らしい。
でも現にさっき飛んできたけど、と思ったが唸りながら未だに悶える翔陽や必死に介抱する先輩たちにそんなことも言えない。一通り手当てを受けた翔陽は、痛みが引くまでこのままという事になったようで、様子を見てほしいと私に言った先輩たちはまた練習に戻っていった。
まぁ、翔陽をこんなにしてしまったのは他でもない私なので、嫌ですとも言えず。とりあえず椅子から降りて、蹲る翔陽の隣にしゃがみ込んだ。


「翔陽、ごめんね」


とりあえずまずは謝罪だ。自分を守るためとはいえ、他の人に私が受けるはずだった痛みを渡してしまったのだから。しかも、それなりに強く叩いたので、威力は上がっているはずだ。
そっと頭を撫でると、ふわふわの明るい髪の隙間から涙目の目が私を見上げた。


「いいって、ナマエのせいじゃないし」
「でも、私が叩き落としたから…」
「叩き落とさずにナマエに当たったほうが俺は嫌だよ。流れ弾って当たるといてーんだから」


俺は男だから平気だけど!と言って翔陽は、片手でそっと私の頭を撫でてくれる。
翔陽は、優しい。彼の痛みの原因を作ったのは私なのに、そんな事気にせず私の身を先に案じてくれた。
優しい手の感触に軽くすり寄れば、翔陽は嬉し気に表情を和らげた。


「でも、できれば次からは叩く威力を下げてくれると助かる…」
「うん、できる限り善処する」


再度来た痛みの波で唸り始めた翔陽。弱弱しく発せられた願いに返事をして、さっきの翔陽の真似をするように今度は私が翔陽の頭を優しく撫でた。




片割れの部活見学
190320 執筆


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