複数ジャンル短編 | ナノ
「戯言だよ…」それが彼の口癖。でも、ときにはそれ以外の言葉を彼が言うのも聞いてみたい、そう思うのはダメですか?




△ ▼ △





家具も必要最低限のものしかない質素な部屋。そこは、≪戯言遣い≫と称されるある青年の部屋。


「…一回くらいいいじゃん」
「いやだよ」


そこで今、ある男女の攻防(?)戦が繰り広げられていた。
片方は艶やかな黒髪を頭の高いところでポニーテール状に結んでいる少女――ナマエ。
もう片方は言うまでもなくその≪戯言遣い≫本人。

先ほどから睨みあったままピクリとも動こうとしない二人。ナマエは凛とした瞳で青年を見上げ、青年は死んだような瞳でナマエを見下す形で見つめる。二人の身長差が激しすぎるので仕方のないことだが、どうやらナマエはお気に召さないようだ。


「なんか、見下されている気がしてムカつく…」
「決してそういう訳でもないけど、まぁ今のナマエから見たらそんな風に見えるんだろうね。僕にとってはとてもいい眺めだし」


と言うよりも先ほどからよく分からないことを繰り返す彼女には正直参っていた。ふぅ、と小さく息を吐いて最後に「戯言だけどね」と締めくくれば目の前のナマエは更に不機嫌になる。少々赤くなった頬をぷくりと膨らませ「また言った。ほんと、いっちーはそればっかり」と不機嫌丸出しの声で呟く。

だからさっきから何が言いたいのかはっきり言ってくれればいいものを…まぁ、自分の意思を伝えるのは大の苦手としている彼女に言っても仕方がないが。だが、そんなところも愛らしいんだよね。


目の前で「むぅ」と膨らんでいる頬を包み込むようにして潰してみる。まるで風船のように空気が抜け、ナマエの顔は怒りか、恥ずかしさか、どちらとも分からないがトマトのように真っ赤になった。


「な、なにすんのよ!!」
「何って?ただその膨らんだ頬の空気を抜いてみただけだよ。以外とすんなり抜けるもんなんだね」
「そうなのよ、いがいとこう…ぷしゅーっとね、ってちがーう!!」
「おぉ、乗り突っ込みは健全だね」


うがぁっと両手を天井に向け彼女は眉を寄せる。どうやら怒ったらしい。怒った顔もまた可愛らしいと思ってしまう僕はもう末期だろうか。
腕を無闇にブンブン振り回し攻撃してくるナマエ。僕はそれを紙一重でひょいひょいとかわしていく。

当たると痛いからね。僕痛いの嫌いだから。


「ちょっと!逃げないでよ!いっちー」
「僕痛いの嫌いだから、嫌だ」
「あーもーっ」
「はい、はずれ」


すきありと言わんばかりに下から蹴り上げられる足。僕はそれを後ろにゆらりと下がることで避け、それによってバランスを崩した彼女を抱きしめた。

すっぽりと腕の中に入りきってしまう彼女。僕は少しそれに満足感を感じ、腕の中で未だに暴れるナマエの首筋に顔を埋めた。とたんにピタリと動きを止めるナマエ。可愛すぎて思わず口元が緩む。


「ちょ、ちょっと!離しなさいよ!メイドオタク!」


少し…いや、結構傷つきました。いや、確かに僕は周りからメイドオタクって言われてるけどそこまでメイド好きなわけじゃないから。僕が好きなメイドさんは、ひかりさんだけです。

と頭の中で弁解しても腕の中の彼女には聞こえるわけでもなく。そろそろ、からかうのも可哀想になったので僕は先ほど彼女が求めた要望に答えてあげることにした。少し力を込めて彼女を抱きしめ、耳元で一言。


「愛してるよ…ナマエ」


体を離したとたん、素晴らしい右ストレートがきた。
僕は、ツンデレも以外と好きだよ。…戯言抜きで。




ときには愛の言葉でも紡ぎましょうか
(君だけのために、ね)

ツンデレヒロイン。
091117 修正


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