複数ジャンル短編 | ナノ
いつものように登校していると、後ろから山口が走ってきた。


「おはよう!ツッキー!」
「山口、うるさい」
「ごめんツッキー!」


いつもいつも交わされるやりとり。それをしながら登校していると、不意に山口が「そう言えば」と口を開いた。


「ツッキーのクラスにも日向って苗字の人がいるよね」
「え?」
「ほら、廊下側の席に…前にツッキーのところ行くとき、偶然苗字で呼ばれてるのを聞いたんだ」
「どうせ同名とかでショ」
「そうだと思ったんだけど、それにしては髪色とか似てたんだよね」


うーん、と唸る山口へ一度視線を向けて、自分のクラスメイトを思い出してみたが、接点がない相手の名前や顔が思い浮かぶわけもない。とりあえず、教室で確認してみようということになり、教室に行ったとき朝からはあまり会いたくない顔に出会ってしまった。
そう、変人速攻の片割れ、日向翔陽。


「あ!月島!」
「ゲッ」
「ゲッてなんだよゲッって!朝から失礼な奴だな!」


ぷりぷりと怒った表情で叫ぶ日向に、よくこんな朝から元気いっぱいになれるなと心の中で呆れる。隣の山口とは普通に挨拶をしているが、それも元気いっぱいだ。本当に、朝から直射日光を浴びたように気力を持っていくヤツである。


「それで、他クラスの人がこのクラスになんの用デスカ?」
「えっと、それが…」
「翔陽」


日向が理由を言おうと口を開いたとき、横から割り込んできたのはとても落ち着いた声だった。見れば、扉から顔をのぞかせている一人の女子がいる。


「これ、お弁当」
「サンキュ!助かったー」
「そろそろ忘れ物するくせ直しなよ。高校生なんだし」
「わかってるって」


「じゃあなー!」と手をぶんぶん振りながら嵐のように去っていった日向。残されたのは先ほどまで日向と話をしていた女子生徒。どこかぼんやりとした瞳で見上げてくる彼女の髪は、確かに日向と似た色をしていた。


「あ、もしかして君が日向さん?」
「…はい」


山口の質問にどこか不思議そうながら頷いた彼女。「翔陽の友達?」と聞いてきたので山口が「同じ部活なんだ」と答えれば、納得したように頷いた。


「私は日向ナマエ。翔陽の双子です。いつも翔陽がお世話になってます」


ぺこりと律儀にお辞儀されたので、つられるようにして山口と僕も軽く頭を下げた。双子という割に随分と日向とは印象が違う。翔陽と太陽にするなら彼女は月だ。物静かで、表情もあまり動かない。まるで元気などはすべて翔陽が持っていったようにすら感じる。


「俺は山口、それで、こっちはツッキー」
「山口、その呼び名で広めようとするのヤメテ」
「ごめん、ツッキー」
「えっと、月島君と山口君、だよね」
「あ、知ってるんだ」
「月島君は同じクラスだし、山口君は良く来てるから」


僕がツッキーと呼ばれるのを嫌っているのも承知の上らしい。名前を知ってからすぐに呼び捨てにする日向とは偉い対応の違いだ。本当に双子かと疑いたくなってくる。
特にこれ以上の会話もないので、どう切ろうかと思っていた矢先に僕らの頭上で予鈴が鳴った。それを聞いた山口は慌てて自分の教室へ走っていき、僕も日向と一緒に自分の教室に戻る。


「月島君」


まだ先生が来ていなくて騒がしい教室内。自席に行こうとした僕の背に日向の落ち着いた声がかかったので振り向けば、やっぱりあまり感情の浮かんでいない瞳が僕を見ていた。


「翔陽、色々突っ走ったりおっちょこちょいなところあると思うけど、よかったら仲良くしてやって」
「まぁ、考えておくよ」


できればあの元気の塊にはあまり関わりたくないけれど。
そんな僕の心境を察したのか、彼女はどこか困ったように笑った。あぁ、笑うこともできるのかと、そんな彼女を見て少しずれたことを考える。


「あと、何かやらかしたら遠慮なく言って。シめとくから」
「うん。……え?」


まるで当たり前のように発された言葉に思わず普通に返事を返してしまったけれど、内容を改めて考えてぎょっと彼女を見ればそこに日向の姿はなかった。
いつの間にか自席に戻った彼女に、先ほどの言葉の真意を問おうと足を向けた時、教師がタイミングよく教室に入ってきた。どうやらそれを察して自席にいったらしい。注意されるのも嫌なので大人しく席につくが、やっぱり気になって日向の方へ視線を向けてみると、そこには僕の方を見てやんわりと笑う彼女がいた。
それが、練習中に日向がたまに見せるどこか威圧感のある笑みに似ていて、確かに彼女は日向翔陽の双子なんだと思った。




太陽の片割れ
190310 執筆


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