複数ジャンル短編 | ナノ
3月3日は雛祭り。5月5日はこどもの日。11月11日はポッキーの日。1月1日は元旦。そして、2月22日は…。


「……。」
「……。」


ある日の午後。最強のトレーナーと巷では唄われている少年・レッド。そのレッドと私は今まさに対峙していた。
ちなみに、いつまでも続くこの点線にはなんら意味はない。ただ、私たちが終始無言でにらみ合っているのを文書的に表しただけだ。

そして、同じように文章的に現状を完結に言ってしまえばこうだ。
レッドは、どこから購入したのかわからない黒猫の猫耳カチューシャを私につけようとしている。
私はその手を必死に掴んで付けられるのを阻止している。ついでに押し倒されている。

最初、家に来たときから何かを企んでいそうだとは感じていたけれどまさかこんなものを出されるとは予想外。しかもいきなりソレを取り出し「付けろ」なんて文法もへったくれもない言葉でつけようとしてきたから更に予想外。結果、私がそれを快く承諾するわけは微塵もなく、やんちゃな子供よろしく取っ組み合いに陥り、現在の状態になっているのである。


「レッド…そろそろ諦めよう。そして上から退こうか」
「……ナマエがこれ付けてくれるなら」
「だが断る!」


即答すれば彼はとめていた手を再度動かし、思いっきり押してきた。真剣な眼差しでぐいぐいと押してくる彼の手を全身の力を結集させて押し返す。それでもまだ体力が残っているのか更に押す力を増した手は次第に私のほうへと迫ってきた。


「っ、だーかーら!イヤだっていってんでしょ!!」
「この前『嫌よ嫌よも好きのうちっていうだろ?知ってるか?ナマエは好きでも嫌って言うんだぜ☆』ってグリーンが…」


あのツンツン頭思考中二病ボーイがぁああああ!純粋ピュアハートが自慢の私の彼氏になんつーもん教えてんだ!


「いや、それはグリーンの嘘だから!この嫌は本当だから!!マジ勘弁してください!」
「……そう、なのか?」


押していた手から一旦力を抜き、瞳を瞬かせて此方を見つめるレッド。私は首が外れるのでは?と言うくらいに首を上下運動させ肯定を示す。

確かに好きでも恥ずかしすぎて嫌って言ってしまうこともあることはある。だから、グリーンの言っていることを真っ向から否定することはできない。でも、このカチューシャをつけるのが嫌なのは本当だ。これをつけるくらいなら嫌いな虫ポケモンの巣窟であるトキワの森に野宿した方がマシにすら思えてしまう。


一時的でも抜かれた力に安堵のため息をつき、ナマエは自分を見下ろしている現チャンピオンを見上げた。


「それにしてもどうしていきなりそんなもの付けろって言い出したの?今日ってなにかそんなマニアック紛いな行為をするイベントあったっけ?」
「……。」


幼子に聞くように質問すれば、レッドは暫くじっと私を見つめたあとポツリポツリと言葉を零し始める。


「今日、偶然食料が尽きてマサラに戻ってきた」
「…うん」
「そしたらグリーンに会って」
「あいつ…またジムサボったな」


あとでこってり絞ってやろう。


「いきなり『ようレッド!お前もこれ、買いに来たのか?お前がこの日を知っているなんて意外だぜ』って言いながらこれを…」


そういって掲げられるのは先ほどまで私が拒みに拒んでいた黒の猫耳カチューシャ。
『お前も』ってことはグリーンも買ってたんだ。誰に使うんだろ。まさか、自分?

考えた瞬間グリーンが猫耳カチューシャを付けにゃぁと鳴く光景が脳裏を横切る。どんだけ想像力豊かなんだ私。とりあえず今の光景は記憶の隅の隅に封印しよう。むしろ忘却の彼方に追放しよう。


「何のことかわからなくて、首傾げたら『ん?知らないのか?今日は2月22日。にゃんにゃんの日。つまり猫の日だ!猫の日つったら思いを寄せる彼女にこれとかほかにも尻尾とか付けてにゃんにゃんするのが普通なんだぜ?』と…」
「そか、絶対違うよね、それ」


というかそんな知識何処から持ってきた。むしろそれを問いただしたいぞ。


「だから、ナマエにこれをつけてにゃんにゃんというものをしようかと…」
「……レッド、まず初めに聞いていい?にゃんにゃんの意味、分かってる?」


それはある一種の特定の人物たちの間でしか通じないある意味、意味深な言葉なんだぞ?まさか私の純粋ピュアハートのレッドさんがその言葉の意味を知っているなんてことは想像つかないし。

おそるおそる聞けば、ずっと下を向いていた真紅の瞳が真っ直ぐに私を見据える。


「……猫ごっこ」
「……っ」


ぼそり、と呟かれた単語に思わず私は床へと頭を打ち付けた。
前からはレッドのビックリしたような声が漏れ、心配そうな声も聞こえてくるが私はそれどころではない。

なんなんだ私の彼氏は。私を萌え死にさせる気なのか!?あ、やばい本当に鼻血でそう。可愛すぎて鼻血でるっ。


「お、おい。ナマエ?」
「な、なに?レッド」
「その、大丈夫か?頭」
「気にしないで。むしろ頭痛いほうが意識をしっかりとどめられる」
「……そう、か……?」


心配そうに私の頭を撫でてくれるレッド。柔らかな感触にそのままの体勢で瞳を細めていると、不意に今まで感じていた手とは違う重さを感じた。そしてそれに続けて聞こえてきたのは。


「やっぱり、似合う」
「……へ?」
「…猫耳」
「っ!なぁああっ!?」


衝撃の単語にガバリと起き上がって頭を数度撫でれば今まで感じなかったプラスチックの感触。それを少し横にずらせば人工の毛のような物体に指先が当たる。


「ちょ、やだっ!こんなの似合わないってっ」


思わず外そうと手をかければその手は一瞬のうちにレッドの手に阻まれる。


「駄目」
「いや、駄目じゃなくてっ。は、恥ずかしいからっ」
「照れるナマエ、可愛い」
「か、かわいっ!?」


突然のレッドからの可愛い宣言。そんな言葉数回しか言われたことがなく耐性などついていない私の顔は一瞬のうちに真っ赤になる。そんな私を見てレッドはまた「可愛い」といって優しく抱き寄せた。逞しい胸板の感触と優しい彼の匂いに包まれ更に顔を真っ赤にさせれば、軽く力を込めて抱きしめられる。


「あ、あの、レッド」
「可愛い、ナマエ」
「だ、だから、可愛いって言わないでって!」


むっと言い返した後真っ赤な自分の顔を隠すように胸板に顔を押し付ける。レッドはそんな私の頭を数回撫でた後、なにやらゴソゴソと動いた。そして、数分後。


「ナマエ、ナマエ」
「…なに?…っ!?」


とんとん、と叩かれた頭を上げればそこには私と同じように黒い猫耳カチューシャをつけたレッドの姿が。ポカンと口を開け、レッドを凝視する私にレッドはいつも間滅多に見せない飛び切りの笑顔でこういった。


「にゃぁ」





猫ごっこ
(すみません、本当に私を萌え死にさせるつもりですか!?(可愛いなコノヤロウ!!))
(え、いや、猫ごっこする日だからまず「にゃぁ」と…)
(ああもう!!レッド大好きだ!!)


2月22日=猫の日!つまりはにゃんにゃんの日!という思考に走った。
100222 執筆


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