複数ジャンル短編 | ナノ
小鳥も寝静まる深夜。一軒の家に灯る光はゆらゆらと揺れ、辺りの暗闇を仄かに明るく照らし出していた。


「んー…草タイプは炎タイプに弱くて、水タイプは草タイプと電気タイプに…ってもうわからーん!!」
「ナマエ」
「んー…」


かけられた声に反応して首だけを後ろにまわすと目の前に広がるのは赤々、そして赤。
ん?なぜ顔面に真っ赤が?と首をかしげていると不意に赤が消え黒が現れる。

黒いさらさらの髪、真紅に輝く瞳。


「あ、レッド」
「なに、やってるの?」
「……勉強」
「何の?」
「ポケモンのタイプのやつ」


ほら、と前日グリーンから借りてきたタイプについて記された本を見せる。レッドはその本を手に取りパラパラとめくる。が、ほんの数秒で閉じてしまった。目をそむけているところからしてレッドはこういう類のものは苦手らしい。


「…目が痛くなった」
「早くね?!」
「こういうの、僕読んだことなかったから」
「まず文字をまったくもって見てなかったんでしょ?」


彼はここに帰ってくるつい先日まで山にいたのだから、文字に触れることはなかったのだろう。そりゃこんな小さな文字いきなり見たら目が痛くなるに決まってる。
眉間に皺を寄せながらむぅ、と唸るレッドは少し可愛らしい。その心情が顔に出てしまったらしく、私を見たレッドの眉間にある皺が少しだけ深くなった。あ、やば…。


「ナマエ、何笑ってるの?」
「え、いや、あはははは」
「……。」
「ごめんなさいごめんなさい!謝るからその手に持っている物騒な赤いボールしまって!!」


名前のところに“カビゴン”て思いっきり書いてあったんだけど!!レッドさん私の家壊すつもりですか!?
私の必死の懇願の成果もあってレッドは渋々とボールをしまう。思わず安堵の息をつき、もう一度本を手に勉強を開始する。


「…ナマエ」
「んー?」
「…眠い」
「いや、眠いなら寝なよ」


私はまだ覚えなくちゃいけないことあるし、とひらひらと手を振れば「もう深夜の2時だよ?」とレッドに言われて固まった。
え?2時?確か勉強始めたときまだ10時だったよね?私そんなに勉強してたの?!
唖然としれば不意に目の前に時計が召還された。針が指しているのは2と3。つまり深夜2時の15分。


「……アンビリーバボー」
「……眠い」


いや、今の言葉につっこみはないんですか。軽く傷ついたぞ。
レッドは「眠い」と再度呟き私を背後から抱きしめる。本来レッドはこの時間帯はもうとっくに夢の世界だったはずだ。私にしてみればこの時間まで起きているということはよくあることなので、あまり眠くはないのだけれど。
擦り寄ってくるレッドの髪をニ、三度優しく撫でてふぅ、と息をはいた。隣のレッドは撫でられるのが心地よいのか半分瞳を閉じて動かない。見方によれば寝ているようにも見えるだろう。というよりも半分寝ているに近い。


「……眠い」
「うん。わかった、寝よう」


こうなった彼はもう「眠い」の一点張りだ。この後私が何を言ってもそれを一切無視して「寝よう」としか言わないのだろう。まるで自由気ままな野良猫のようにさえ思えてくる。


(一人で寝ればいいのに)


一度そう提案したことがあったがレッドは頑として首を縦に振らなかった。彼曰く「ナマエを抱いて寝るとよく寝れるから」だそうだ。私は抱き枕か。

ポンポンと彼の頭を軽く叩き、半場強制的にレッドの意識を浮上させる。そして、もそもそとヌオーのようにゆっくりとベッドへと向かう彼を見送ってから、スタンドライトの電気を切った。一瞬にして訪れる暗闇。その中で布の擦れる音とベットのきしむ音だけが響いた。


「…ナマエ」
「ん、今行く」


いつもより慎重にベッドへと向かい(今日はいつもより書類が至る所に置いてあるからだ)やっとのことでベッドの淵を掴むことが出来た。そしてそのまま布団を手探りで探っていれば、急に腕が強い力で引かれ無様に布団へと転がり込む。


「うげっ」


女らしくない声が口から漏れた。顔面に走る少しの痛みに悶えていれば腰にほっそりした手が回り、ぎゅっと温かな温もりに包まれる。


「ナマエ…あったかい」
「レッド、せめて抱きつくのはベッドに入ってからにしてよ」
「……。」
「……レッド?」
「……。」
「…寝るの早っ」


お前はのび●か。
突っ込んでみたけど反応は無し。後ろから聞こえてくるのは規則的な寝息。
まぁこの時間までレッドは待っていてくれたのだ。夜更かしになれていない彼にとっは襲い来る睡魔との闘いはきっと大変だったのだろう。しかたがないから、この顔の痛みは待っていてくれた事に免じて許してやることにしよう。


「おやすみ、レッド」


明日は彼の好きな物でも作ってあげることにしようか。
そんな事を考えつつ私もレッドと同じように夢への世界へと船を漕ぎ出した。





夜更かし
(……おやすみ、ナマエ)
100523 執筆


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