複数ジャンル短編 | ナノ
事の発端はごくごく簡単な事だった。ハロウィンである今日。私がNの屋敷に行って定番の「トリック・オア・トリート!」と言った時。


「なに?そのトリックなんとかって…」


というNの爆弾発言から始まったのだ。
場所は台所。もともとはゲーチスが自分の私利私欲のために作り上げた城らしいけれど住むにあたってそれなりの生活用品は揃っていた。


「それにしても珍しいよね〜、いまどきハロウィンの事をしらない人がいるなんてさ」
「それを僕に言われても困るよ。実際に僕はポケモンの事しか教えてもらえていなかったんだからしかたないだろ?」
「そう思うと…やっぱり私はゲーチスがNにした事、許せないな…」


カシャカシャと金属と金属がぶつかる音が室内に響く。泡だて器でクリームを作っている私の隣で私の相棒であるジャローダと話をしていたらしいNは此方を見た。


「あれでも一応僕の父親なんだけどね…」
「でも、実の息子を自分の理想を叶える為の道具として使った挙句、使えなくなったらバケモノ呼ばわりしたんだよ?そんなの父親失格だね」


ガシャン!と一際強く泡だて器をかき混ぜれば少量のクリームが宙を舞う。
確かに自分の理想を追う事は良いと思うけれどそれを叶えるために息子を道具として扱い、負けたら役立たずと罵るなんて私からすれば最低な事だ。そんな奴は親にならなくていいとさえ思えてくるほどに。
顔に飛んでしまったクリームをペロリと舐めとり、「やっぱ、許せん」とボソリと呟けば隣から押し殺したような笑い声が聞こえてくる。見ればNが口元を抑え小さく笑っているのが見えた。


「N、一応私今怒っているんだけど…」
「ああ、ごめん。でも、ナマエの顔に、クリームが…」
「え、嘘!まだとれてない?」


どこ?とボールを置いてぺたぺたと顔を触っていると少し骨ばった大きな手が横から伸びてきて鼻を軽く拭い去ってゆく。


「これ」
「ありがと、N」


お礼を言えば彼は柔らかく頬笑みその指をくわえてしまった。それには流石に仰天し「ちょっとN!」と大声を上げてしまう。


「ん?何?」
「汚いよ!出して!今すぐ出して!!」
「美味しいよ?このクリーム」
「〜〜そ、そういう意味じゃなくてー!いいから出して!」
「もう食べちゃった」


口から出された指の上には確かに何もない。出されると同時に軽くNの喉が上下したのを見て、私は大きくため息をつき顔を覆った。なんでそんな恥ずかしい事を彼はこんなにも簡単にやってのけてしまうのか…。普通はするほうが照れるはずなのにむしろされたこっちの方が恥ずかしい気持ちでいっぱいだ。


「ナマエ?どうしたの?」
「別に、何でもないよ」
「顔赤くない?風邪?」
「違う。気にしないで」
「そう?…体調悪いなら休んでも…」
「だ、大丈夫大丈夫!あと少しだし、時間も迫ってるからね」


安心して、と笑えばNもつられるように笑う。気を取り直してボールを持ち直し泡だてを再会。出来上がったクリームを見て満足げに頷けば横から覗いてきたNも感嘆の声を上げた。


「ナマエ、上手だね」
「まーね、伊達に一人でイッシュ旅していたわけじゃないよ」


時にはポケモン達と野宿した事さえもあるし、よくフウロちゃん達とお菓子なども作っていたのでこれくらい朝飯前だ。
自分的にも自画自賛できるほどのいい出来に仕上がったクリームを見て頷き、先に作っておいたケーキへとそれをトッピングする。お化けカボチャに見立てた大きなカボチャケーキ。ケーキが出来上がってゆく様をNは興味ありげに見つめる。


「それにしてもすごいな…ハロウィンってこんな事するんだね」
「まぁ少しずれていはいるんだけどね。本当はさっき私が言っていた言葉を言いながら家々を回ってお菓子を貰うのが定番なの」
「だから来て早々にあんな事言ったんだね」


納得がいったとばかりに頷くNを見て私は苦笑する。


「まさかNがハロウィン知らないなんて予想できなかったけどね。でもまぁ、いいか。こうしてハロウィン迎えられるんだし」
「それにしてもこのケーキ、二人分にしては大きくない?」
「美味しいものを食べるなら二人より大人数の方が美味しいでしょ?」


ふふ、と意味ありげに笑えばNは首をかしげる。と、タイミングよく外からガヤガヤと騒がしい声が聞こえて来た。「来た来た」と私が笑えばNは不思議そうに私を見つめる。


「ナマエ、N、トリックオアトリート!」
「久しぶりね!」
「ナマエ〜トリックオアトリートぉ!」
「トウヤとベル、二人とも発音へんだから。ちゃんとTrick Or Treatぐらいは発音しなよ」
「トウヤ、トウコ、それにベルにチェレン!?どうしてここに君たちが…」
「私が呼んだんだよ」
「…え?」


驚いたように此方を見るN。私はそんな彼を見て悪戯が成功したときの子供のような笑みを浮かべた。


「Nがハロウィン知らないって言った時ね、思いついたの。Nの初めてのハロウィンは皆でハロウィンパーティーしたらいいんじゃないかって」


早急に連絡を取るのは少し大変だったけど、と付け足せばNは瞳を見開く。そして、眉間に眉を寄せ嬉しさと不安を混ぜた複雑な表情を見せた。


「でも、僕は…彼らにとっては…」
「友達だよ?」
「へ?」
「俺らにとってNは大切な友達、だよな?トウコ」
「うん。あったりまえじゃない!最初に出会ってバトルして、会話をした時から私達は立派な友達よ!そうよね?ベル、チェレン」
「うん!私達とNは友達だよ!かけがえのない大切な友達!」
「ま、一応、だけどね」
「チェレンってば素直じゃないなぁ〜」
「う、五月蝿いな…」
「ああ〜照れてる〜」
「チェレンが照れてる〜」
「う、て、照れてないっ!断じて僕は照れてないっ!!」
「うわーい!チェレンが怒った〜」
「ツンデレめー」


チェレンをおちょくりはじめたトウヤとベルが笑いながら脇を走ってゆく。それを追いかけてゆくチェレンがあまりにも必死だったので笑いながら私はNを見た。
彼の顔はお世辞にもきれいと言えない程に嬉しさでぐちゃぐちゃになっていて。赤子をあやすように軽く頭を撫でてやればボロボロとナイアガラの滝のごとく涙があふれ出す。


「僕…てっきり皆に嫌われたかと、思って…」
「そんな事あるわけないでしょ?第一Nの事嫌いならここまで来てくれないよ」
「ほら、泣きやんで、N。まだパーティーすら始まってないんだから」
「トウコ…ナマエ…」
「まったく、綺麗な顔が台無しだよ…」


持っていたハンカチで涙を拭えば更にあふれ出してくる涙。仕方がないと笑いながら優しく丁寧に拭いてあげれば「ありがとう」とお礼を言われる。


「気にしないで。今日の主役はNなんだから」
「そうよ。主役が泣いてちゃ意味ないでしょ?…それにしても、あんた達!いい加減にしなさいよ!!」


未だに騒いでいるトウヤ達にしびれを切らしたのか彼らのもとに走ってゆくトウコ。そんな彼女の様子に小さく笑い最後に彼の瞼に付いていた雫を脱ぎ去ればその下から見えるのは笑顔。


「ありがと、ナマエ」
「お礼を言われる筋はないよ。これは私がやりたいからやっただけ。お節介かもしれないけれど」
「ううん。お節介なんかじゃない。…すっごく、すっごく嬉しいよ」
「…そっか」


喜んでもらえたなら何より、とNの手を両手で包みほほ笑む。すると彼もへにゃりと頬笑み「本当にありがとう」と呟いた。


「これからは、Nは一人じゃない。私達がいるから」


まだまだ時間は沢山ある。今まで孤独な時間を過ごした分、その倍の楽しい時間を、思い出を作っていけばいい。その第一歩が、このハロウィンパーティ−だ。


「ありがとう、ナマエ。君に出会えてよかった」
「それはこっちの台詞。私も、Nに出会えてよかった」


こつんと額をぶつけ合い柔らかく笑う。そうしているとケーキが置いてある机の方から「ナマエー、Nー、早くー!」という声がかかる。


「さ、行こうN。皆もう準備して待ってる」
「…うん!」


力強く頷いた彼の手を握り、私達はトウヤ達のもとに歩き出した。





First Halloween
(来年はできたら…二人っきりで)
(N…気が早いよ…)

2010年ハロウィンNVer
101030 執筆


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