複数ジャンル短編 | ナノ
まずは落ち着け私。そうだ、今日はハロウィンだから前々から捕まえたかったヒトモシを捕まえにひとっ走りフキヨセシティのタワーオブヘブンに行っていた。帰り際にフウロちゃんとお話を少ししてお菓子貰って、それを食べつつぼんやりと家に帰った。そう、それまでに家に誰かが来るなんて情報はまったく来なかったし、途中ですれ違ったチェレンやベルからも私に用がある人がいるよなんて聞きもしなかった。
だから…。


「突然過ぎるんだよいっつもいっつもトウヤの訪問は!!」
「ナマエ、五月蝿い」
「あ、ごめん…じゃなくて!なんでいっつもトウヤは唐突に私の家に来るわけ!?いつも扉開いててビビるこっちの心境も考えてくださいお願いします!」
「無理」


土下座しそうな勢いでの懇願も、目の前で優雅に足を組み勝手に入れたらしいコーヒーを飲む彼の二言によって無残に砕け散った。はぁ、とため息一つついてとりあえず近所迷惑にならないように家へと入る。綺麗に揃えてある靴の横に自分の靴を並べリビングへと足を踏み入れればトウヤは此方へと視線を向けた。


「別にいいだろ、幼馴染なんだし」
「幼馴染っていってもそれなりの社会マナーは守っていただきたいんですが…」
「そんなもの僕とナマエの間にはあってないようなものだろ」
「……相変わらず俺様」
「なんか言った?」
「いえ、なにも」


茶髪の間から除くブラウンの瞳が私を鋭く見据える。反射的に顔をそらせば彼の額にしわが寄る。


「それにしても、こんな遅くまで僕を待たせるなんていい度胸しているよねナマエって」
「待たせる以前にここに来るって話を聞いていないんだけど…」
「そりゃ知らせたら面白くないじゃん。知らせない事によって僕の突然の訪問に慌てふためいてずっこけるナマエの姿を楽しみにして来たのに…」


興ざめだよ、と深いため息をつくトウヤ。溜息をつきたいのはこっちだ。
帰り際にスーパーによって買ってきた食材を下ろし、冷蔵庫へと詰める。そんな私の後ろ姿をトウヤは少し面白くなさそうに見詰めつつ、また一口コーヒーを飲んだ。


「それで、こんなに遅くまでナマエは何処行ってたの?返答によってはダイケンキのハイドロポンプね」
「怖っ!…別に、ただ、フキヨセシティのタワーオブヘブンにヒトモシ捕まえにいっていただけだよ」
「ヒトモシ?なんでヒトモシ?」
「ほら進化系のシャンデラ、あれってさハロウィンっぽいじゃん?だから今日ハロウィンだし記念に捕まえに行こうかなって思って」


捕まえたヒトモシを見せればトウヤは呆れたように瞳を伏せた。でもその口は少しだけ笑っていてなんだか安心したような表情も混ざっている。
そんな彼を見つつ、私は頭に乗ろうとしているヒトモシを抱きかかえその子の口にふしぎなアメを入れてやった。別にすぐさま進化させたいわけではないのだが、ハロウィンだし飴はお菓子代わりといったところだろうか。自分もフウロちゃんから貰った飴を食べれば、なんだか感じる痛い視線。


「……なに?トウヤ」
「別に…その飴、誰から?」
「フウロちゃんから。今日はハロウィンだからって貰ったの」


もうないけどね、とべっと飴を見せれば「見せんな、汚い」と一刀両断。
まったく彼は本当に自分の家に何をしに来たんだろう。ただ文句を言いに来ただけならばそろそろ帰ってもらいたい。


「それで、トウヤは何しに来たわけ?もう用事ないなら帰ってもらえると助かるんだけど…」
「なんで?」
「今からポケモン達とハロウィンパーティーするんだよ。新メンバーの歓迎会も兼ねてね」


珍しくNも来てくれるって言ってるし、と付け足せばガチャンとなにかが叩きつけられる音が室内に響く。驚いて音の出どころを見れば持っていたカップを机に置き、物凄い形相で此方を見つめるトウヤの姿。
その瞳に怒りの色がちらちらと見え、恐ろしさに思わず身をすくめる。腕の中のヒトモシもその雰囲気を察したのか身を縮こませ私に抱きついてきた。


「今、なんて言った?」
「え…だ、だから皆でハロウィンパーティー…」
「違う。そのあと。誰が来るって?」
「えと…Nが…」
「なんで、そこでNが出てくるの…?」
「だ、だって、ハロウィンを知らないっていうから」
「なんで僕は誘わないのにアイツを誘うの?」


ゆらりと立ち上がったかと思うとゆっくりと近づいてくるトウヤ。だけどその顔に表情はまったく浮かんでおらず。
身の危険を感じて後づさったがすぐに壁に当たってしまう。しまったと思うより早く、横に置かれる一回り大きな手。目の前には無表情のトウヤ。


「と、うや…」
「ねぇ、どうして?」
「ち、近いよ…」
「そんなの関係ない。僕の質問に答えて」
「だって…チェレンからトウヤはこの日博士の家の方でパーティーがあるからって聞いて」
「そんなのナマエから誘われていたらすぐに断るよ」
「でも、久しぶりに皆で集まるって思ったから。邪魔しちゃいけないって」
「別に会わないだけで連絡はしているから久しぶりじゃない。むしろ、ナマエとの方が久々じゃないか」


悔しそうに歪むブラウンの瞳。今まであんなにも無表情だったトウヤの顔が一気に苦痛の表情に染まる。その顔を見た瞬間ズキリと私の胸が痛む。


(彼にこんな表情をさせてしまうなんて)


胸に抱いたヒトモシが悲しそうな声を上げる。そのヒトモシを優しく撫で、私は目の前のトウヤの頬に片手を添えた。トウヤはその手をよわよわしく握り、捨てられそうな子供のような表情で擦り寄る。


「ごめん。ごめんね、トウヤ」
「ナマエが悪いんだ…旅が終わって、またナマエと沢山遊べると思っていたのに…今度はナマエが旅に出て」
「うん」
「今までどこぞに行ってたあのNに偶然会ったりしてさ。いっつも話に出てくるのはNばかり、僕の話なんか時々で」
「うん」
「今日だって一緒にハロウィンを過ごしたかったのに…来てもいないし。挙句の果てには僕をほっぽってNとハロウィンパーティーをするとか言って」
「…ごめん」
「寂しかったのに…」
「ごめんね、トウヤ」


ボロボロと子供のように涙を流す彼。その涙を優しく指で拭って柔らかな髪を撫でればさらにあふれ出る涙。

こんなにも彼は私との時間を作ろうと頑張ってくれたのに私はなんて事をしてしまったんだろう。彼を苦しませて、悲しませて。こんな顔をさせてしまった。

ヒトモシには悪いけれどボールの中に入ってもらって、「ごめん」と何度も謝りながら両手で彼の頭を抱きしめる。するとトウヤの両手が私の腰に回り、絶対に離さないとでもいうかのように強く引き寄せられた。


「今度は絶対にトウヤを優先するから。置いてけぼりになんかしないから」
「本当に?絶対にしない?」
「うん。だから泣きやんでよ」


俯いている彼の顔を両手で包みこみ目線を合わせるように持ち上げれば潤んだ瞳とはち合わせする。目じりに溜まった涙を吸うように口づければ彼は安心したような笑みを浮かべた。


「ナマエ、大好き」
「うん。私も大好き」


今度は彼からの甘い甘いお菓子のような口づけが降ってきて、そのくすぐったさに身をよじれば小さく笑われた。それでも口づけはやむ事を知らない。だんだんと激しくなる口づけ。
その合間に小さくトウヤが「ナマエ、Trick Or Treat」なんて呟くもんだから思わず閉じていた瞳を見開く。


「なに、突然」
「今日はハロウィンだから」
「それにしてはいきなりすぎる」
「いいんだよ。それよりさ、お菓子頂戴」
「今はないに決まっているでしょ。あとでケーキ作るから、それでいいよね」
「いやだ。今がいい」
「んなメチャクチャな…」


お菓子なんてないよ、と困ったように呟けばトウヤは妖艶にほほ笑む。


「あるよ、ちゃんとココに…」
「どこに…っ…ん!?」


口を開きかけた瞬間噛みつくようにされた口づけ。さっきの啄ばむような口づけではなく、もっと深い大人の口づけ。容赦なく口内を蹂躙する彼の舌に酔っていると不意に口の中から何かが無くなる感触。それと同時に口づけが止み、最後に小さく下唇を吸われ離れてゆく唇同士を銀の糸が繋ぐ。
必死に息を整える私の前では何やら口の中でコロコロと何かを転がしているトウヤ。未だに回らない頭と焦点の合わない瞳で彼を見つめればトウヤは悪戯っ子のように笑い。


「ごちそうさま」


先ほど私が食べていた飴玉を見せつけるようにべっと舌を出したのだった。





寂しがり屋の狼と赤頭巾
(ナマエ、遊びに来たよー)
(いらっしゃい、N!)
(いらっしゃい)

2010年ハロウィントウヤVer
101030 執筆


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